||踏み出す足


※「手を取り合う者」の続きです。


高校に入って数ヶ月。
両足が動かなくなって、数ヶ月とちょっと。

「暑いなぁ」

あまり好きではない季節が、やってきていた。

「綾乃さんは、昔から夏が好きではありませんね」
「ひろくん」

汗を拭きながら顔を顰めると、少し後ろに立っていたひろくんが、微笑んでそう言った。そう、彼の言うとおり、私は昔から夏が嫌いだ。理由はたくさんある。一般的によく言われる「夏が嫌いな理由」の大体に、私は見事に当てはまってしまう。

「だって、ねぇ。夏なんて、良いことないし。ひろくんは部活が忙しくなるし、私は自分じゃほとんど動けないから、暑いし。辛いことばっかだよ」
「部活は、すみません。できるだけ一緒にいたいのですが、簡単には休めませんから」
「謝ることじゃないけど」

それに関しては、単なる私のわがままなのでひろくんにはあまり気にしないで欲しい。私のせいで、これ以上ひろくんに迷惑をかけたくはないし。ただでさえ、私の足の事で彼にはずいぶんと荷を背負ってもらっているのだ。決して軽くはない、嫌な荷を。

「ひろくん、いつも言ってるけど、嫌になったら離れて良いんだよ?」
「あなたはいつもそれですね。嫌になるわけがないでしょう」
「だって、いつ嫌になるかわからないじゃない。今はそう思ってくれてても」

私が彼の足を引っ張るような真似はしたくない。いや、今もうすでにしているんだけれど。
ひろくんは黙って私の頭を優しく撫ぜ、わざわざ正面にまわってきてから、視線を合わせるようにしてしゃがんだ。彼の目はいつ見ても優しい。その微笑みに、いつも辛くなる。結局私なんて甘えでしかないんじゃないかと。

「好きです。綾乃さん」
「・・・・・・ひろく、」
「夏休みになったら、たくさん出かけましょう。綾乃さんが嫌なら諦めますが・・・、せめて夏祭りくらいは、一緒に行きたいですし」
「で、でも」
「車椅子での移動は大変かもしれませんが、私がサポートしますから。良いでしょう?」
「・・・・・・良い、けど」

押し負けるようにしてうなずくと、ひろくんは小さく笑った。今から楽しみですねなんて、これ以上ないくらい優しい優しい笑顔を浮かべる。じわ、私の瞳に涙が浮かぶ。

「ねぇ、ひろくんは、どうしてそんなに優しいの?」
「私は優しくなんてありませんよ。優しいとしたら、それはあなただけです」
「ばか。私なんて、優しくしなくて良いのに」
「私が優しくしたいんです。それとも、迷惑、でしょうか」
「・・・・・・違うけど」
「良かった」

またひろくんが笑う。私はなんだか自分の弱さが恥ずかしくなって、少し俯いた。私って、馬鹿だ。それに、子供。それに比べてひろくんはずっとずっと大人だ。

「あなたが今、何を考えているのかはわかりませんが」
「っ、」
「少なくとも私は、あなたの存在にとても助けられているんですよ」

だからこそ、ずっと一緒にいたい。ダメでしょうか?
ひろくんはこちらをまっすぐに見つめて、そう言った。首を横に振ることなんて、勿論できなかった。

「・・・・・・わたし」

もう一生動くことはないであろう両足をじっと見つめて、それから私は、小さく頷いた。ひろくんと一緒になら、私にだって歩くことができる。進むことができる。そんな風に思うことができた。


み出す


綺麗ごとだとしても、できるなら、君と一緒に、いつまでも。
――――――――――――
大変遅くなってしまいすみません……!
リクエストありがとうございました!

2013/8/12 repiero (No,141)


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