||もどかしき光景


好きって気持ちが言えなくての別視点です。


好きって伝えるのは、案外難しかったりする。

きっとそんなことを思って今日も今日とてなやんでいるのであろう我が友を眺め、私ははぁ、とひとつため息をこぼした。気付く事もなく、背伸びするようにして一生懸命に仁王君と話す彼女は、今日も今日とて可愛らしい。可愛い、可愛い、仁王君の想い人。両想いの彼らは本日もそれに気付く事なく、互いに互いを恋焦がれあって過ごしているのであります。

「なんか、参っちゃうねぇ。こうも鈍感な子たちだと」

ぽそり、呟いて、またため息。端から見れば、彼らの想いなんてわかりやすすぎる程なのに。彼女の親友という立ち位置のせいで、「あの子達って付き合ってるんでしょ?」とかなり断定的に聞かれたことは、一度や二度ではない。その度に「違うよ」と否定し、相手を納得させるのは非常に厄介な話で、大抵の場合は私が嘘を言っているのだと一方的に思い込まれてしまう。

「あの子は鈍感だから」
「仁王君も意外とウブだし」
「ふたりとも、自分が相手につりあわないとか思っちゃってて」

だから、お互いに「好き」って伝えるだけの一歩が踏み出せずにいて。
そんな言葉を羅列して、とにかくふたりが今は付き合っていないことをなんとか相手に伝えようとする。すると時々「ふぅん。なら私が告白してみようかな」とかなんとか言って、仁王君にラブアタックしにいく人がいるが、当然のことながらそういう子達はあっさりと振られる。悪いの、好きな奴がおるんよ。そんな短い言葉で。
みんなに美人美人とはやし立てられていた隣のクラスのえみも、女子では学年一もてているんじゃないかと噂のカナも、みんな彼にふられた。ただひとり、綾乃という存在に勝てないが為に。

「あっれ。仁王君、どっか行っちゃったし。あーあー、綾乃が寂しがってるっての」

明らかな落胆を滲ませて机に突っ伏す綾乃。まわりにいる子達もその様子に気がつき、仁王君の出て行った扉を見つめて呆れた様子だ。どうせ彼がサボリ目的で屋上に向かったのであろうことは、誰の目からも明らかである。クラスメイトたちはみんな、綾乃と仁王君の関係性をよく知っている。

「ねぇねぇ、聞いた?仁王君、あの美人で有名なえみちゃんに告られたんだって」
「えー、まじ?でもどうせ振ったんでしょ?」
「うん、ぽいよー。てか仁王君って誰かと付き合ったりするの?」
「前は色んな子と付き合ってたのにねー。好きな人でもできたのかな?」
「うわ、それショックなんだけど。ってか好きな人できたなら告れば良いのに」
「仁王君なら絶対オッケーだよねー」

クラスメイトは、わざとそんな話を綾乃に聞こえるように話して、彼女を遠まわしに急かす。えみが仁王君に告白したなんてのはもうずいぶんと前の話だし、仁王君に好きな人がいるなんてのは、先ほども言ったように皆がとうに知っている事実なのだ。
こんな噂話をするのも、彼女たちなりに、綾乃の尻を叩いているつもりなのだ。あんたなら大丈夫だよって。それこそ人の心なんていつ変わるかわからないんだから、早く告白しちゃいなよって。

(そんなこと言ったら、綾乃の心だっていつ変わるかわからないのにねぇ)

意気地なし。
仁王君のことを思い浮かべ、私は吐き捨てるようにそう呟いた。
と、綾乃が立ち上がる。どこかへ行くつもりだろうか。なんだか少し顔色が悪い、先程の話が彼女の精神を虐めてしまったに違いない。

「・・・あれ、綾乃?どこいくの?」

白々しく、私は彼女に声をかけた。

「ちょっとトイレ・・・」
「大丈夫?顔色悪いけど」
「うん・・・ごめん、先生に言っといてもらえる?あと仁王君の事も誤魔化しといて」
「わかった、無理しないでね?仁王はサボりって言っとくわ」
「うん。・・・って、サボりはだめだよ〜」
「はいはい、わかったから。早く行きな?」

頷いて、綾乃は静かに教室を出て行った。たぶん、向かうのは保健室ではなく屋上だろう。仁王君に会いにいって、二人きりの状況下で、今日こそは告白しようと奮闘するに違いない。恐らくは、毎度の如く失敗してしまうんだろうけれど。

「・・・・・・ごめん、私たち、言いすぎたかな。綾乃ちゃんの背中押したつもりだったんだけど・・・・・・」
「んー、ま、言いすぎといえば言い過ぎかもね。でも、大丈夫じゃない?仁王君がなんとかしてくれるでしょ」
「だと良いなぁ。綾乃ちゃんも仁王君も、早く告白しちゃえば良いのに」
「ほんとにね」

肩を竦めて、ある意味彼らよりも不器用なクラスメイトたちと笑い合う。みんながみんな、応援している。いじめなんかも、そんなの私たちが止めてあげる。だから、あんたは心配しないで仁王君のことだけを見ていれば良いの。


かしき


きっと、いつか変われる日が来るから。
――――――――――――
大変遅くなってしまいすみません。

かなり昔に書いた話の番外編でしたが、色々と思い出しながら楽しく書けました。リクエストありがとうございます。

2013/8/11 repiero (No,139)


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