||すれ違う


私が、焦りすぎていたのかもしれない。私が、勘違いしてしまったのかもしれない。私が、ふさわしくなかったのかもしれない。

「え・・・なん、で」

ただ無機質に、機械的に彼からの「言葉」を画面に浮かばせ続ける携帯。無意識に漏れ出た声は悲壮感よりは驚きの方が強く、勝手に何度も視線がそれを読み直すが、いまいちその真意を理解できずにいた。
彼とは、付き合って3日になる彼氏のこと。
そしてその「言葉」とは、

『別れようぜ』





告白したのは私からだった。もう卒業して高校はばらばらになってしまったから、なかなか会うのは難しい。中学時代とても仲の良かった彼にどうしても気持ちを伝えたかった私は、せめてとばかりに電話でそれを伝えた。少し考えさせてくれ、というのが彼の返事。私はうなずいて、それから2日。なんとか了承の返事をもらえた。先ほども言ったが彼とは元々仲が良く、恐らく付き合いだしても関係はしばらくこのままであろうと思っていた。距離も遠いし、私自身は恋愛ごとが得意ではないし。
しかしそれでも彼と話はしたかったから、夜になると彼に今時間はあるかと送った。ロマンティックな会話や気の効いた態度はいらない。ただ、話してくれるだけで良かった。

『悪ぃ、今日は時間ねぇわ』

返信はそれだけ。翌日も、そうだった。彼氏というもの自体がそもそも初めてだった私だが、けれどその内容に違和感を覚えずにはいられなかった。もちろん私が夢を見ていただけかも分からない。けれど、仮にも彼女に対する態度にしては、いささか不自然ではないかと思ったのだ。本当は彼は私の事を彼女などと思っていないのではないか、という見解にたどり着くのに、時間はかからなかった。
そしてまた、翌日。夜になって、メールを送ろうか迷っていた私のもとに、今度は彼の方からメールが届いた。内容は先ほど言った通りである。あまりに唐突すぎて、逆に思わず笑いそうになった。

『どうして?』

ひとまず、そう返した。余裕を振舞う私だが実際の表情はすぐにでも泣きそうで、指先も震えていた。

『なんか、違和感があんだよ。友達としか思えねぇっつうか』

冷たい言葉。最もといえば最もな、身の程をダイレクトに知らされるかのような辛辣な文章だった。私は少しだけ、息を止めて何かを考え出した。何を考えていたのか、その時はたしかに頭の中にあったが今となってはどういった内容であったかすらも思い出せない。それほど、混乱していたのかもしれない。

『そっか。もしかしたら私も友達の延長だったのかもしれない』

『別れよっか』

すらすらと指が動き、文章が思うままに打ち出されていく。ほとんど無意識の内に打たれた文だったから、ひょっとすればそれは本当に、「本心」からの言葉だったのかもわからない。けれど私が、彼と同じように彼のことを「友達」としか思えなくて、そして「友達に戻りたい」と思っていたかと言われると、決してそんなわけはなかった。

『じゃあ、明日からまた、仲良くやろうな』
『うん、こちらこそ』
『ありがとう』

表面で見れば、私はとてもできた人間のように映っただろう。けれど本当を言えば、彼の言葉の重さに勝てずに本心を丸投げした、ただの弱虫だ。

『綾乃!』

過去の記憶の中で、ブン太が私の名前を呼ぶ。にこにことした笑顔、ふたりで一緒に食べたアップルパイはいつも美味しかった。いつまでもこの関係が続けば良いと、いつのまにかそう思えなくなったのは私だけだったのだろうか。
先に進みたいと、思ってしまったのは本当に私だけだったのだろうか。

「ブン太は、私なんて」

唇が自虐的に言葉をつむぐ。私は笑った。自分を嗤った。自らの愚かしさに笑いが止まらなかった。


すれ


私も彼と同じ気持ちでいられたらどんなに楽だっただろうか、ただの友達で満足できていたらどんなに幸せだっただろうか、そんな風に思って、ぎゅ、と携帯を握り締めた。画面にはいつまでも、彼のエゴのような『ありがとう』の文字が浮かび上がっていた。
――――――――――――
今回は実話を元に書いています。
リクエストありがとうございました!

2013/4/24 repiero (No,126)


[一覧に戻る]
[しおりを挟む]

[comment]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -