||七色の愛


「亮、おこってんの?」
「・・・・・・」

後ろから聞こえる優しい声。心配するような声。俺にとって世界で一番大切な、生涯の伴侶。その彼女と今、喧嘩のようなものをしていた。

「亮、ごめんね」
「・・・・・・」

実を言うと、俺は全くもって怒っていない。彼女もたぶん気が付いてる。でもそれでもこうやって「喧嘩してるフリ」をして俺のわがままに付き合ってくれるのは、彼女が優しいからだろう。いつまでたっても俺はガキで、大人な彼女には遠く及ばない。

「あ、ねぇ、ほら。虹」
「え?」
「あー、やっと振り返った」

彼女の声にふりかえると、にぃ、と嬉しそうに彼女が笑った。空を見てみるものの、虹などどこにもない。・・・つまり嘘だったということか。俺がまた不機嫌げに唇を尖らせたのを見て、ごめんごめん、と言って優しく微笑んで彼女が謝る。まったく、悪戯好きなのは相変わらずだな。

「そんなに怒んないでよ」
「怒ってねぇよ」
「えー、ほんと?」

クスクス、と彼女が笑う。先ほどまで振っていた雨につくられた水溜りを、彼女が楽しそうに跳ねて越えていく。そういうところは俺より子供なんだ。俺が「馬鹿じゃねぇの」といって笑うと、彼女はいいじゃん、といって楽しそうに笑った。

「せーっかくの結婚記念日なのに、喧嘩ばっかだね。私たちって」
「まぁ、良いんじゃねぇの。俺ららしくて」
「そうかもだけど。でもさ、今日くらい――」
「・・・・・・どうかしたのか?」

ふと彼女が足を止め、言葉もとめる。その視線は空を向いていて、亮、あれ、と言って彼女がそちらを指差した。なんだと思いつつも、つられるようにそちらを見た。

「ほら、ほんとに虹だよ」
「・・・久しぶりに見たな、虹なんて」
「うん。綺麗だねぇ」

ふふ、と彼女がますます楽しそうに笑い、いつのまにか空にかかっていた七色の橋を見上げて嬉しそうな表情を見せる。俺はそんな彼女を見つめ、それから虹を見て、

「・・・のが・・・だよ」
「えー?」
「・・・んでもねぇよ!!」

呟いた言葉を照れたように隠し、そっぽを向いて歩き出した。後から慌てて彼女が追いかけてくる。それからなんて言ったの?と聞いてはくるものの、たぶん彼女にはきこえていたはずだ。・・・まったく、意地悪な奴だよな。

「ねー亮、もっかい言ってよー」
「誰が言うかよ!」
「あ、ちょっと待ってよ!」





『虹よりお前のほうが綺麗だ』、なんて・・・何回も言える言葉じゃねぇっつの。
――――――――――――
二宮和也さんの「それはやっぱり君でした」をテーマに、ということで。
少しでもイメージしていただけたら嬉しいです。

リクエストありがとうございました!

2013/3/9 repiero (No,119)


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