||ヘタレ上等!


「はぁぁぁ・・・・・・」

盛大につかれたこの溜息が、そもそもの原因であった。

「どうしたんだよぃ」
「ブンちゃんか・・・もう俺は死ぬんじゃ。放っておいてくれ・・・」
「はぁ?なに馬鹿な事言ってんだよ、ペテン師が聞いて呆れるな」

珍しく仁王に元気がなかったので、声をかけてみた。そしたら第一声からこのザマなわけで、俺は無意識に眉根を寄せた。まぁどうせ「アイツ」の事でウジウジしているんだろうが、それにしたってどうしてこうもテンションが低いのか。
飄々とした様が人気のはずの仁王は、「アイツ」に関してだけは殴りたくなるほどにヘタレな野郎だった。

「良い加減告ればいいだろぃ」
「無理じゃ・・・振られたら立ち直れん・・・・・・」
「そんなの俺が知るかよぃ。例え立ち直れなくても行動するのが男ってもんだろ?」
「ブンちゃんが珍しくかっこよく見えたぜよ」
「はぁ!?俺はいつもかっこいいんだよ!」

ったく、折角相談に乗ってやってるのに口だけはいつも通りなんだから腹立つぜ。もう一回殴り飛ばしてやろうかな。そしたら目が覚めるんじゃないだろうか。

「あぁ・・・そういやお前、アイツが告られたの知ってるか?」
「B組の原口じゃろ・・・?」
「そうそう。まぁ断ったらしいけど、その理由が・・・」
「言うな、聞きたくないぜよ」
「なんだ、それも知ってるのか」
「じゃから落ち込んでるんじゃよ・・・・・・」

はぁぁぁ、とまたここで盛大な溜息。どうやら相当に参っているようだった。
ちなみにその理由と言うのが、「好きな人がいる」というもの。アイツの好きな人が誰かなんてのは知らないが、それを聞いて少しは期待したりしないんだろうか。俺だったら確信するけど。

「あ、ほら噂をすれば」

俺がそう言った瞬間、仁王が一瞬にして上体を伸ばした。それから俺の視線の先を見、その表情を恋する乙女のようなうっとおしいそれに変える。

「仁王、仁王、お前今すごい気持ち悪い」
「うるさいぜよ、綾乃が可愛すぎるのが悪いんじゃ」

こいつ、ペテン師名乗るのやめた方が良いんじゃないだろうか。

「・・・あ、雅治、ブン太。おはよう」
「おー、おは「おはようナリ!」・・・よう」

先ほどからの豹変振りが凄まじい。もう苦笑いしかできなかった。

「ブン太、数学の宿題やった?」
「徹夜した」
「あ、そう。写させてくんない?」
「・・・別に良いけどよぃ」

人が頑張ったのをサラリと流してきやがったこいつ。だから苦手なんだよ。こいつのどこが良いのかがわからねぇ。仁王はベタ惚れみてぇだけど。

「綾乃、俺・・・・・・」
「あ、私これから先生のとこ行かなくちゃだからごめん」

すっぱりと話を遮られ、仁王はもはや涙目。少しだけコイツに同情してやりたい。するとそんな仁王を見て思うところがあったのか、

「また後で話聞いてやるから。ね?」

と、微笑みながら仁王の頭を一撫で。仁王は当然の事ながら赤面、女神でも見るかのような目でその後姿を眺めていた。一瞬だけコイツに殺意が沸いた俺を許して欲しい。

「・・・ってか、これから授業じゃねぇか!」

アイツ、先生がどうのって、絶対サボるつもりだ。

「仁王、追いかけた方が良いぜぃ。アイツと授業一緒にサボってこいよ」
「おん!!」

疾風の如く消えていった。なんなんだアイツ。
・・・それにしても、二人きりにして大丈夫だろうか。まぁ、なんだかんだ言ってアイツも仁王の事気にしてるみたいだし、大丈夫だろぃ。
後はなるようになれ、だな。





「綾乃!」

何故か後を追いかけてきた雅治を見て、ちょっと笑ってしまった自分がいた。
ここは屋上で、私がいるのは給水塔の上。きょろきょろと私を探す姿が可愛い。

「仁王、こっちだよ」
「!」

なんか嬉しそうだ。雅治は猫みたいだと思ってたけど、なんか犬にも似てる気がする。

「先生に呼ばれたんじゃなかったんか?」
「ただのサボり」

退屈そうな顔でそう言う。雅治はオロオロとした様子で私の方を気まずげに見つめていた。私、なんかしたんだろうか。

「綾乃、は・・・・・・すっ、好きな教科とか、あるんか?」
「教科?別に・・・、あ、英語好き」
「ほ、ほぉか」

ブン太と3人で話している時は普通なのに、二人だけになると雅治はいつもこんな調子だ。前にそれを言ったら、ブン太が苦笑いしていた。仁王はアドリブに弱いんだとかなんとか言っていたが、果たしてそれは本当なんだろうか。ペテン師なのに。

「仁王は数学とかが得意なんだよね?」
「! し、知っとるんか?」
「勿論。仁王の事ならなんでも知ってるよ」

・・・友達がうるさいし。
と、いう言葉はさすがに飲み込んだ。言ったらなんか勘違いされそうだ。

「なんでも・・・」
「そ、なんでも。生年月日とか空で言えちゃうけど」

軽く笑って言ってやると、仁王が大きく目を見開いた。え、なに、そんなびっくり仰天な事言ったかな私。どうしたのほんと。

「・・・俺・・・・・・、」

それから一拍たっぷりと間を置いて、

「生まれて初めてブンちゃんに感謝したナリ」
「・・・はぁ?」


ヘタレ上等!


仁王はそれからずっと笑顔だった。ほんとになんなんだろう、こいつ。
――――――――――――
折角リクエストしていただけたのですが、なんとも難しい……。
お楽しみいただければ幸いです。

2012/6/5 repiero (No,43)


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