||愚か者


ひとりで、廊下を歩いていた。
そこそこの広さの廊下をただひとり歩いていくのは、あまり慣れた感覚ではない。隣に誰もいない寂しさに、少し足取りが重たくなってはまた早くなり、そして遅くなってと、そんなことを繰り返していた。もうすぐ授業がはじまる。教室からは程遠いこの廊下を歩いていれば、遅刻は必須だろう。だが構わない。別に、授業に出たいわけではないから。

(もうふたり)

授業をサボっているであろう面々は、俺だけではない。ここ立海はマンモス校だから、探せばいくらでもいる・・・というのもあるが、でもはっきりと、授業をサボっているであろうことが確認できる二人を知っていた。仁王とあいつだ。たぶん屋上でサボりつつ、キスやら×××やらと思春期真っ盛りなことをやっているのだろう、と予想がつく。それを考えると腹がたってどうしようもなくて、俺は顔をしかめて廊下の壁をぶったたいた。拳は痛いが、でもそうでもしなければこの気持ちを抑えてなどいられない。

屋上に行って、仁王を殴ってあいつを連れ去りたい・・・なんていう、どうしようもなく愚かで邪魔者な気持ちは。

それをしたところでどうにもならない、というのは自分自身よくわかっている事実だ。なぜなら彼らは恋人同士で、しかも互いに愛し合っている。俺がそんなことをしたところで友人関係にヒビをいれ、よからぬ噂を広めるだけである。そう、そんなことはわかっているのだ。

「ばかだね、綾乃は」

いかに愛し合っていようと、自分が利用されていることに気がついていないのだろうか。仁王は自分の欲求不満を、自分の好みで可愛くて面倒なしがらみがない彼女にぶつけているだけなのに。もちろん、仁王は彼女のことを愛しているが、しかしそれもいつまでもつか。彼が女性に対して最低な野郎なのは、恐らく周囲にいる全員、そして彼女自身も知っていることだろう。
綾乃は、知っていて、彼と一緒にいるのだ。愛されているから自分は大丈夫だ、という意味のわからない自信をもって。彼女はそういう人だ。好きな人と一緒にいられるのなら、多少無理を強いられようと我慢する。仁王のような男にとって最も都合が良い相手。

「俺を選べば君は幸せだった」

今のように、キスとか×××とか、そういうのを頻繁にやるような快楽に溢れた関係にはならなかったとは思うけれど。でも、絶対に幸せにはなったはずだ。愛の形を×××に頼るだなんて幼稚な考えは、少なくとももたせなかった筈で。

「馬鹿だよ、綾乃」

最初から、こんなことになる前に連れ去っておけば良かったんだろうか。彼女たちはもう後戻りできない。いつか別れて、彼女が傷付いてそれで終わりだ。

「・・・俺も、馬鹿だね」

後悔するくらいならば、と今考えたところでなんの慰めにもならない。彼女が俺にむけてくれる笑顔だけが、せめて現実から逃れるこやしになるのだ。俺は彼女と恋人ではないし、ただの友達でしかないが、その上で俺は彼女に依存している。彼女を愛し、彼女を必要とし、ひとりよがりに彼女を求めている。
俺は馬鹿だ、と改めて呟いて、ひとりまた誰もいない廊下を歩き出した。足取りは屋上とは反対、教室のあるほうへと向かっていく。


か者


いつかくる終わりを望み、彼女を手に入れたいと思いながらも、彼女が傷付くことを恐れて終わりを拒もうとする。なんて愚かなんだろうかと、俺は頭の隅で嘲けるように笑った。
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リクエストありがとうございました!

2013/2/24 repiero (No,112)


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