||Will you marry me?


ひどく端正な顔立ちをした恋人がいる。彼は優しく、比較的無口で、頭が良く、運動もできるいわゆる「完璧」に近いような人だった。彼の大好きなスポーツ、テニスのことになると多少厳しいところも多いが、私からしてみれば彼のそんなところも魅力のひとつにしかすぎなかった。

彼と付き合いだしたのは、一体いつからだったか。
今は互いに25を迎え、若い子たちから見れば盛りを過ぎはじめたような年になったが、私たちが出会った当初はまだ16を迎えるか迎えないか、そのくらいだったはずだ。運動は滅法苦手で、勉強と人付き合いの良さだけがとりえだった私は、高校に入り彼と出会い、そして卒業を間近にしてゆっくりと付き合いだした。
私は向かいに座る彼の伏せられた目を見つめ、それから手元のコーヒーカップに視線をうつす。「大事な話がある」、と、まるで今更のように呼び出されたのは良いが、特にそれらしき話題が切り出されるでもなく、とりとめのない話ばかりを繰り返していた。

「ねぇ、国光」
「・・・・・・」

途切れた話を続けようと声をかけると、彼は視線だけをちらりとこちらへ向けた。ゆったりとコーヒーを飲む姿は様になるが、今は早く「大事な話」をして欲しい一心である。一体何を話そうというのか、お互いのことなどほとんど知り尽くしてしまったであろうこの間柄で。

「綾乃」
「・・・なに?」

名を呼ばれ、顔をあげる。いつものとおり優しい彼の表情に唇を尖らせ、次の言葉を待つ。しかし間もなく彼の口からこぼれ出た言葉に、私はコーヒーを盛大に吹きそうになった。

「・・・はっ、結婚!?」
「嫌か」
「ちが、ちょっと待って、落ち着かせて」
「別に落ち着くなとは言っていないだろう」

ごほごほと咳き込み、なんとか呼吸を整え、改めて彼の方を見る。彼はのんびりとコーヒーを口に運び、まるで変わったことなど言っていないかのような表情だ。しかしその視線はテーブルの上を何度も滑り、少なからず緊張しているであろうことが察せた。

「結婚って・・・、あの?」
「それ以外に何かあるなら教えてくれ」

私は呆然と彼を見た。何度か口をぱくぱくと動かし、何か言わんとするが、言葉が出てこない。だって、結婚って、・・・結婚かぁ。

「綾乃」
「え?」
「返事を聞かせて欲しい」
「えー・・・・・・、と、この空気で言えと?」

私が噴出しそうになってしまったせいで、静かで落ち着いていた空気はまるでぶち壊しである。いや、私が悪いのだけれど、でもこの空気で返事などしたくない。うーん、と顔をしかめて悩むように頭を抑えると、彼の手が私の手を掴んだ。彼の顔が近付いて、音もなく唇が重なる。キスは当然初めてではなかったのに、突然のことに思わず目を見開いた。あ、という単純な声すら出てこない。

「綾乃」
「・・・っ」
「結婚してください」

どこからともなく取り出した指輪と共に、彼が微笑む。・・・ずるいじゃないか、そんな風にプロポーズをしてくるだなんて。


Will you marry me?


――――――――――――
手塚ってどんな人だっけ……。
リクエストありがとうございました!

2013/2/24 repiero (No,110)


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