||I miss you


とても、好きな人がいました。
その人はいつも笑顔で、可愛らしく、そして聡明な人でした。私がいくら隠そうと、悩み事は全て見抜かれてしまうのです。私は彼女が大好きでした。

だからこそ、私は、甘えていたのかもしれません。
彼女の優しさと、その心の強さに。

「ねぇ、比呂くん」
「なんですか?」
「あのさ・・・」
「?」
「ずっと、このままでいられたら良いね」

彼女はそう言って、小さく微笑みました。照れくさそうに、でも幸せそうに。それが嬉しくて私も微笑んで、そうですね、と彼女に返します。彼女は笑っていました。

「卒業まで、あともうちょっとかあ」
「寂しいものです」
「私は比呂くんがいるからいーや。高等部でもよろしくね?」
「クス・・・、もちろん」

繋いだ手を強く握り締め、私はそう言って彼女の頭を撫でました。その時の彼女の表情は、今でもよく覚えています。幸せそうでした。少なくとも、私にはそう見えました。

「・・・あ、信号青だよ」
「行きましょうか」

私たちは歩き出しました。ここは大きな通りで、車もどの時間帯でもかなり通っています。私は歩きながらぼんやりと、彼女のことばかりを眺めていました。
さて、果たしてそれが悪かったのか。
私の不注意か、運転手の不注意か。恐らく後者だと見る人が大半で、正論からいけばそうなのでしょうが、でも私は今も自分が悪かったのだと思っています。だって、あれは、私がよく前を見ていれば、防げたことなのですから。

「っ!!、比呂くん!」
「は・・・、っ!?」

突然、衝撃と共に彼女に弾き飛ばされました。そのまま彼女は反動で前に押し出され、そしてそこに、一台のトラックが突っ込んで行きます。

「ッッ!!?」

ドッ、と、鈍い音を立てて両者が衝突、そのまま彼女は大きく飛ばされ、トラックもゆっくりと停車をしました。居眠り運転、でした。

「綾乃さ・・・、」

声が、出ませんでした。名前を呼びたいのに、彼女のもとに駆け寄りたいのに、身体がうまく動かないのです。よろよろと彼女の方に歩み寄って、どさり、と腰を落とします。辺りはすでに喧騒に包まれていました。悲鳴もたくさん聞こえていました。そうして間もなく救急車の音も。

「あ・・・ぁ、綾乃、さん?」

それから、何が起こったかはよく覚えていません。ただ呆然と、彼女を見つめていたのだけは覚えています。救急車に一緒に乗せられ、すぐ傍で慌しく隊員さんが動いているのも、記憶で言えば曖昧にしか覚えていません。気がつけば病院にいて、そして気がつけば、全てが終わっていたのでした。

「綾乃さん・・・」

大好きでした。あなたの笑顔が、聡明なところが、心配かけまいと悩み事を隠してしまう優しさが。

「・・・っ、う・・・」


I miss you


あなたの全てが、今も、大好きです。
――――――――――――
死ネタとか切系は書いてて楽しいです。
なぜって、盛り上がりやすいからです。

リクエストありがとうございました!

2013/2/18 repiero (No,108)


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