||闇に溶けた答え


線香の匂いがした。

辺りは暗く、僅かなザワつきを除き、嫌に静かである。見渡す限りに目に飛び込んでくる色は、黒、黒、黒。質素な、あるいは上等な喪服に身を包んだ老若男女たちが、何かを悲しむような顔で部屋中に散らばっていた。奥には一枚の写真が置かれており、時折それが人ごみを抜けて視界に入っては、俺の心を締め付けた。ふ、と一瞬、線香の香りが強く鼻腔をくすぐる。後にも先にも、この匂いをこんなにも気分悪く嗅いだのは、これきりだろう。

ここは葬式の場だった。誰の、と聞かれれば、俺の恋人の、というようにしか答えようがない。幸せな毎日や彼女と過ごした時間を思い出しても何にもならないのは知っていたけれど、でも、無意識に、彼女の姿が脳裏にちらついてしまう。
一緒に下校して、その日は用事があったから途中で別れて、そして家に帰ってみたらいきなり「事故死」という訃報を聞かされたのだ。病気とかならともかく、心の準備も何もかも、あったものではない。俺が一緒に帰っていれば、とか、ぐるぐるぐるぐる何の為にもならない後悔ばかりが渦巻く。彼女の姿が俺の頭を支配しているようだった。

「綾乃」

名前を呼んでみた。なぁに、と頭の中で彼女が返事を返す。

「・・・っ、はは、は」

思わず笑いが漏れた。彼女も笑っている気がした。楽しそうに、というよりは、俺のことを馬鹿にしている笑いだ。

「好き、だった。お前のことが、お前の全部が」

今更もう遅いというのに、何を言っているのか。思えば俺はいつもそうだ。彼女はいつも俺の傍で笑ってくれていたのに、それに何もしてやれなかった。好き、という言葉だって、1度伝えたきり、それをほのめかすようなことすらしたことがない。彼女は本当は、どう思っていたんだろうか。馬鹿で、頼りにすらならない俺のことを。


けた


もしひとつ願いが叶うとしたならば、その答えを知りたい、と思った。大好きだった彼女の笑顔を思い出し、うなだれるようにして、俺は瞼をおろした。
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短いです、ごめんなさい。
リクエストありがとうございました!

2013/2/16 repiero (No,107)


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