||ガラスの如く


最初に言い出したのは、赤也の方だった。

『別れよう』

冗談みたいな言葉だと思った。少なくともあと10年は聞くことがないだろう、とも思っていた言葉で、初め私は、あまりにびっくりして聞き返してしまった。え、なに、もう一度言って。と。すると彼は丁寧にも同じ言葉を繰り返して、その時わたしは、彼が決して冗談を言っているわけではないということに気がついてしまったのだった。

『どうして?』

そう聞いてみたけれど彼から答えはなく、ただ彼は悲しげな顔をして、無言できびすを返してしまった。あ、と声がこぼれて追いかけてみようかと思ったけれど、すでにそんな気力は私には残されていなかった。
どうして彼と別れなくてはならないんだろうか。考えるほどにわからなくなる答えは、それこそ考えるほどに私から逃げていってしまっているようだった。その場にへなへなと座り込んで、呆然と彼の背を見つめて。気がついたらわんわん泣いていた。自分でもうるさいと思うくらい、大声で。誰かに見られていたら、恥ずかしさと悔しさと振られたことへの絶望で、そのまま屋上から飛び降りていたかもしれない。

(・・・あ、赤也)

それから2ヶ月ほどが経過し、私たちはすっかり恋人でも友達でもなくなった、気まずくすらならないような遠く離れた関係を保っていた。放課後、部活を終えて玄関に向かう途中、廊下の奥に赤也の姿を見つめ、私はただ漠然と、彼の存在を視界に捉えた。

(女の子と一緒にいる)

告白、のようだった。あれから彼が誰かと付き合ったという噂は聞いていない。告白はされているらしいが、断っているそうだ。本命がいるんだろうか。勿論、私とは別に。やっぱりその時も彼は断ったようで、遠目に女の子が泣きながら角を曲がっていくのが見えた。

(私も、あのとき目の前で泣けばよかったのかな)

そうしたら彼も、少しは気を変えていただろうか。だいたい、彼が私と別れたいと思った理由はなんだったのか。一緒に帰って、ふざけて、ワカメって言って怒らせて、変顔しながら謝ってはまた怒らせて。楽しかった、ほんとに、楽しかった。幸せだったのだ。

「あ、れ?」

ぱた、と涙が落ちた。やば、と思って慌てて拭うけれど止まらなくて、尚更焦った。するとタイミング悪く、赤也がこちらに振り向く。彼と視線が絡んだ。いつぶりだろうか、こんなの。

「あ・・・・・・、」

彼はそれだけ呟いて、それからすぐに踵を返して走り去ってしまった。やっぱり、私には会いたくないんだろうか。というか、いきなり泣いてたらあまり関わりたくはないか。あは、そうだよね、当り前のことだ。何を、期待しているんだろう。

(変わってないのは、私だけ、か)

涙をごしごしと拭いながら、そんなことを考えた。彼はもう変わってしまったのだ、私の知らないところで、私から離れるようにして。

(それでも、私は)
「・・・好き、でした」

ぽつ、とまるで嘆くように呟いて、私も同じくその場を走り去った。彼は私に会いたくないようだけれど、できることなら今すぐにでも、赤也に会いたい、と思った。けれど天邪鬼なもので、足はきっちり赤也とは反対方向に向かっている。


ラスの


もしも生まれ変われたら、また、なんて叶うはずのない願いを呟いて、大好きな赤也の笑顔を思い出していた。
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奥華子さんの「変わらないもの」をテーマに、ということで。
時をかける少女の挿入歌なんですが、実は映画は見てません。機会があったらきっと見ます。
言われてみれば、くらいでも、歌詞を想起できるような話になっていれば良いなあと思います。

フリリク企画、ご参加ありがとうございました!

2013/2/9 repiero (No,102)


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