||堕落


付き合って2年になる彼氏がいた。

最初の1年間は順風満帆、幸せ絶頂といったところで、辛いことなんて何もなかった。彼氏がいればなんでもできる気がした。本当に本当に幸せで、ずっとこれが続くんだ、って、そんな気すらしていた。
それから時間が経って、付き合って2年目、中3の夏に入った頃。ちょうどその頃は、彼の所属するテニス部の全国大会があった。うちの学校のテニス部はすごい。なんたって、全国大会2連覇だ。今年は3連覇を狙って、彼も張り切っていた。でも、現実そううまくはいかないもので、大会は準優勝で終わってしまった。私は彼を慰めた。慰め、というよりはただ傍にいただけだけれど、下手に何かを言っては彼が壊れてしまうと思ったのだ。優しい彼、頼もしい彼、かっこいい彼。早く戻って欲しかった。
でも、彼は大会の日を境に変わってしまった。

「仁王雅治」

遠方に立つ彼の後姿を見つめて、私は静かにその名前を呟いた。彼が振り返ることはない、もう彼は私の方なんて見ていないから。女遊びにうつつを抜かし、私という「恋人」など構うことなく他の女にばかり手を出している。しかも、私とは一度もしたことがないのに、セックスだってたくさんやっているそうだ。
恋愛小説とかでよく見るような内容だけれど、私の場合は少し状況が違う。彼は本当に、私に興味をなくしてしまったのだ。話しかけても返事などなく、メールを送ってももちろん返事はない。あげくの果てに、「うざいから消えんしゃい」とまできたものだ。彼は私のことなど捨ててしまっている。私もいい加減、彼から離れてしまいたかったけれど、でもまだ燻り続けるこの恋心はなかなかにしつこいものだった。

「綾乃さん?」
「あ・・・、精市」

同じクラスの友達に声をかけられ、私ははっとしたように名を呼んだ。精市は微笑み、それから少しだけ悲しそうな顔をした。彼が私の後方に視線をやる。私もつられて振り返って、雅治が誰か別の女と一緒にいる姿を見て唇を噛んだ。

「ねぇ、これから時間あるかい?」
「・・・うん、あるよ」
「良かった。それなら、俺の家に来ないかい?」

え、と最初は戸惑ったようにどもった。しかしすぐに気を遣ってくれているということに気がつき、ありがとう、と微笑んで彼についてその場を去った。





通されたのは言うまでもなく、彼の部屋である。綺麗に整頓されていて、でもやはりどこかに男の子らしさというものを感じる部屋だった。

「・・・まだ悩んでいるのかい?」
「え・・・・・・、」

唐突にそう聞かれ、私は驚いたように目を丸くした。しかしすぐにそれが何をさしているかに気がつき、視線を落とした。雅治のことだろう。精市は時々相談にのってくれている、私のくだらない悩みなんかの相談に。

「辛い?」
「・・・っ、辛い、よ」
「・・・・・・そっか」

ぽつり、と呟いた彼の声は静かで、しかし確かに労わりというものを含んでいた。彼の表情もまた特に何かをうつしているわけではないが、でも寂しそうに、悲しそうにこちらを見ていた。

「仁王なんかやめて、俺にしなよ」
「・・・ありがとう。でも、私は、」
「俺は本気なんだよ。君が好きだ。君を苦しめるあいつが堪らなく憎い」
「・・・・・・」

彼の表情はあくまで静かだったが、でも嘘を言っているようにも見えなかった。自然と私の眉尻が下がる。・・・彼を好きになれていたら、雅治ではなく、彼を選べていたら、私は今こんなに苦しい思いをすることはなかったんだろうか。現実は残酷だ。

「わた、し」
「綾乃さん」
「精市・・・」

ごめんね、という声の後、触れるようなキスをされた。抵抗はしなかった。ただぼんやりと、漠然とした悲しみと共に彼を見つめるだけで。
彼が私をベッドに押し倒す。細い指がボタンを外し、私の肌を徐々に露にしていく。これから起こるであろうことに察しがついて、雅治とですらしたことがないのに、と薄っすらと笑みが漏れた。あはは、馬鹿だな、ほんと。両手で顔を覆った隙間をぬって、透明な雫が零れ落ちていったけれど、今更気になんてならなかった。精市は気にしたかもしれない。手が一瞬、止まったから。

「んっ・・・、」

彼の指が胸に触れる。優しい愛撫。雅治とも、こういう風にセックスをしたんだろうか。今となってはもう、二度と叶わぬ夢だ。

「・・・ッ、今は、あいつのことは考えるな」
「精市?」

呟く彼の表情は悲しげだった。涙は出ていないのに、泣いている、と思った。どうしてなのかは、わからないけれど。
精市の指が下着越しに秘所に触れた。円を描くようになぞられる。初めての感覚にぞくりと背筋が泡立った。

「ふぁ、あぁん・・・っ」

敏感なんだね、と精市がぽつりと呟いた。精市がそう思うのであれば、そうなのかもしれない。やがて指が引き抜かれ、短い合図と共に彼の猛ったモノが挿し入れられた。押し寄せてくる快感。めちゃくちゃになりそうだ。

「あ・・・ぁっ、あ、ぁあっあっんぁっ」

揺さぶられる身体。猥らな音。甘ったるい声。精市の悲しげな顔。

「あ、は・・・、あはは・・・っ」

馬鹿だ、私。





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切重視で書いてみました。
リクエストありがとうございました!

2013/2/11 repiero (No,101)


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