||予想外


氷帝学園の生徒会は、大勢の生徒たちにとっての憧れである。何故なら生徒会の会長があの跡部景吾その人であるからで、3年前から、毎年ひと学年4枠しかないところを大勢の人が争っている。私もその「大勢」の中のひとりだったわけだが、目的は決して跡部会長などではなかった。ぶっちゃけ言って、内申点の為だ。だから無事会長に認められて生徒会に入った後も、別に彼に興味を抱くことはなかったしこれからもそのつもりでいた。
でも、それが守られていたのは中2の冬まで。
中3の春、私はとうとうそれを貫けなくなってしまったのだ。

「会長」
「アーン?なんだ」
「書類です。図書委員会から」

私たちを除いて誰もいない生徒会室。差し出した紙を彼は受け取って、面倒そうに目を通しはじめた。黒ぶちの眼鏡ごしに見つめる彼は、今日も当たり前のように麗しく美しい。唇を紡いで下を向けば、彼がちらりとこちらを見た。
ちなみに私の役職は副会長で、その為かよく会長に呼び出される。あれを手伝えこれをやれ、少しは他の人も使ってくれれば良いのに、会長はしょっちゅう私をこき使った。今日のように2人で仕事をすることも決して珍しくはなく、・・・思えば、生徒会に入った3年前からずっとそうだ。

「どうした。何かあったのか?」
「いえ、別に」
「アーン?本当にか?」

彼の青い瞳がこちらを見つめる。私はそれを正面から見返しつつも、どこか遠くのほうを見ていた。跡部が眉を寄せる。私はさっと目をそらして、身を翻し自分の席に戻った。

「・・・峰里」
「なにも、ありませんから」

あえて冷たく、声の震えは押し殺して、小さく呟いた。

私にとって、この恋は無謀以外の何物でもなかった。地味で取り柄もなく、名家のご令嬢というわけでもない自分と彼では、月とスッポン、天地ほどの差がある。しかも彼には許嫁がいるとの噂もあり、全くもってなにからなにまで、私が彼に付け入る隙などなかったのだ。

「会長」
「・・・アーン?」

声をかけると、彼は書類の束をもったまま返事を返した。そちらに目をやるが、彼は書類の方にばかり目線を向けていた。

「ひとつお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」
「言ってみろ」
「・・・会長でも、恋とかされるんですか?」

ばさ、と紙束が落ちた。机の上に落とされた内、何枚かがひらひらと床に舞う。跡部は驚いたようにこちらを見ていて、私はそれを見返しつつも、内心少し動揺していた。

「・・・何やってるんですか、かいちょ「峰里」・・・、」
「お前、それ本気でいってんのか?」
「・・・・・・?そ、そうですけど」

私が小さく答えると、彼は呆れたように頭をおさえた。溜め息までつかれたからには、恐らく私の返答が気にくわなかったのだろう。

「あの・・・」
「峰里」
「は、はい」
「答える前に、俺からもひとつ聞きたい。いいな?」
「あ、はい・・・・・・」

跡部が一拍置いて、改めてこちらを見た。

「お前は、恋をするのか?」

その言葉に、きょとん、と彼を見つめる。それから数拍おいて、ようやくのことで当たり前じゃないですか、と言うと、跡部は深く溜め息を溢した。若干安堵しているように見えたのは、私の気のせいか。

「峰里」
「は、はい」
「さっきの質問だが、単刀直入に言うと答えはyesだ」
「は・・・」

はた、と動きが止まる。跡部も恋をする、ということに少し驚いたのだ。
なんだ、会長も恋をするのか。そう思うと、若干の希望を見出だすと共に「許嫁」の噂が急に色付いて聞こえてきた。もしこの噂が本当だったら、と顔が青くなる。それこそ今の私の恋なんて、無謀どころかそもそもが無駄なのに違いない。

「か・・・、会長が恋する人って、どんな方なんでしょうか」

声が震えていた。跡部は立ち上がり、こちらに歩み寄ったが、何も言わずに私を見ていた。彼が私の机に片手を置いて寄りかかる。距離が近い。余計に心臓が高鳴った。

「知りたいのか?」
「・・・そう、ですね。できればお聞きした」

言葉が、不自然に途切れた。私は目を見開き、今までで一番間近に見る跡部の端正な顔立ちに動揺を隠しきれなかった。重ねられた唇が熱い、なんて考える余裕があったからには、実は思った以上に冷静だったのかもしれない。それに対する彼はずいぶんと落ち着いていて、私の瞳をのぞきこむように見つめている。

「かい、ちょ・・・・・・」
「質問の答えは以上だ。・・・他に質問は?」
「っ・・・!?」

我に返り、途端に顔を真っ赤にして椅子ごと後ずさる私に、彼は静かに笑って、もう一度小さくキスを落とした。


想外


そのあと許嫁のことを尋ねると、んなもんいねぇよ、と爆笑されました。
――――――――――――
生徒会恋愛とか萌!と気合を入れて書き始めましたが、みごとに空回りました。
いずれ書き直すかもしれません。

リクエストありがとうございました!

2013/1/18 repiero (No,91)


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