||好き


私にはかけがえのない親友がいた。

「ねーねーおんぶして」
「やだ」
「おんぶ」
「・・・仕方ないな」

一言・・・ではないけど、簡単に言うならこんな感じの関係。恋人ではない。親友だ。でも、時々付き合っているんじゃないかと聞かれるくらい仲は良かった。
相手は、この学校ではアイドルとなんら差異ない扱いを受ける、男子テニス部の部長さんだった。幸村精市。校内なら知らない人はまずいないだろう。

「まったく、お前はいつまでたっても甘えただね」
「精市がお母さんみたいなんだもん」
「それはどういう意味だい^^」
「い、良い意味ですよもちろん!」
「ったく・・・まぁ良いけど」

こんな風に色々とスレスレなやり取りをするのが好きで、休み時間になるといつも彼と駄弁っていた。恋人になりたいと思ったことはないし、このままで良いとも思っていたが、時々一生この関係のままでいられるのだろうかと思ったこともあった。

「精市は、好きな人いないの?」
「いるよ。・・・ってそれ、昨日も聞かなかったかい?」
「そうだっけ?ほら、私忘れっぽいからー」
「まぁそれはそうだけど。・・・あ、そういえば綾乃は?綾乃には好きな人はいないのかい?」
「・・・『好き』?」
「うん」

精市が柔らかく微笑む。あぁ、その表情だよ。その表情が、我が子を見つめる母親の目にどことなく似ているんだ。だから精市は、私にとって親友であると同時に母親に近い何かでもある。

「好きな、ひと」

精市に言われた言葉を繰り返す。そうか、好きな人。精市にそれがいるように、自分にはそれはいないのだろうか。一緒にいたいと思えるような、キスとか、ハグをしたいと思わせるような。

「・・・わかんない」
「そっか。綾乃は、まだそれでいいかもね」
「どういう意味?」
「まだまだ子供ってことだよ」
「なにそれ!」

私は怒ったように精市に噛み付くが、精市は聖母のような微笑を浮かべて私の頭を撫でた。もうこれでは完全に母親と子供。同い年だよね、同い年。それが時々、悔しく思える。

「・・・あ」
「なんだい?」
「ううん、なんでもない」

精市に頭を撫でられながら、ふと、思い当たった人がいた。「好きな人」、というやつだ。特別その人と恋人らしい関係になりたいわけではないが、でもずっと一緒にいたいし、そう思い合えるような関係でありたい、そう思える人物だった。

(精市は、誰が好きなんだろう)

「好きな人」を見つめながらそんなことを考える。精市はどこか遠い目をしながら、私の方をじっと見ていた。きっと私なんて、まともに相手をされていないだろう。彼にとっては親友、もしくは妹のような存在であるかもしれない。それ以下ということは少なくともないと信じたいが。

「ねぇ、綾乃」
「なぁに?」
「俺の好きな人、教えてあげよっか」
「・・・え?」
「俺の好きな人はね・・・、」

そこまで言いかけて精市は微笑んで、そっと私のひたいにキスを落とした。今まで何度か抱き締められたりおぶさったりと、そういうことはあったが、キスをされたのは初めてだった。

「せ、いち?」
「好きだよ、綾乃。・・・まだ俺のことは、受け入れられないかな」
「ぁ・・・・・・」

寂しそうに微笑む彼を見るうち、私は自然と、彼に抱きついていた。彼からしてもらうんじゃない、自分から、彼に抱きつくというのは恐らくこれが最初だ。

「好き、私も。精市が、好き」
「・・・良かった」

精市が微笑む。そんな表情を見るうち、いつのまにか頬に暖かいものが伝った。彼が私のそれを優しくぬぐう。何も悲しくはないのに、自分が泣いていることにそこで初めて気がついた。

「・・・精市」
「なに?」





あまりに当り前に、零れ落ちるように口から出た言葉に、彼は嬉しそうに微笑んで、そっと、私の唇にキスを落とした。初めてのキスに、私はなんだか、自分が大人になったような気がしていた。
――――――――――――
親友から恋人になる瞬間、ということで。
キャラは気分で決定いたしました。
幸村さんにしてみましたが、いかがでしょうか?

リクエストありがとうございました!

2013/1/2 repiero (No,84)


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