||milk
「ひかる、ひかる!」
「・・・・・・」
「光ヒカルひかる光ヒカルひかる!」
「・・・なんやねん」
「えへへ、呼んでみただけ!」
そう言うと、光は無言でわたしの頭を撫でた。わたしはえへへと笑って光を見つめる。こうやって、彼に触れられている時間が好きだった。自室に彼氏と2人きり、これ以上に幸せな時間はない。
「なに聞いてるの?」
「秘密」
「けち。教えてくれたっていいじゃん」
頬を膨らませると、光は呆れ顔でイヤホンを外し、わたしのひたいに綺麗なデコピンをかました。地味に痛いのがなんか悔しい。唇を尖らせたわたしに、光はかすかに笑う。少しだけ、バカにされているような気がした。
光は聞いていた音楽を止めると、アイポッドを片手にこちらを見る。それに反応してずいと顔を近づけると、引き寄せられるようにして光の肩にもたれかかった。
「ほな、なに聞きたい?」
「光が聞きたい曲」
「俺は綾乃が聞きたい曲を聞きたいんやけど?」
「む、そうきたか。じゃあ、じゃあ、さっき光が聞いてた曲!」
「はいはい」
差し出された片方のイヤホンを耳にはめると、すぐになにか静かな音楽が流れてきた。光がこういうバラードを聞いているのは、少し珍しい。聞いているだけで眠気に誘われそうな、そんな曲だった。
「・・・・・・綺麗な曲」
「『milk』っていうんや。ええやろ?」
「うん。なんかこう・・・光みたい」
「はぁ?どっちかっつーと真逆やろ、俺は」
光が顔を顰める。たしかに、他の人はそういう風に思うかもしれない。でも恋人という立場のわたしからしてみると、この曲はまるっきり光そのものを現しているように感じられたのだった。
「なんか、こう・・・うまく言えないけど。でも光だよ」
「・・・・・・」
「あ、なにその顔!べつに悪い意味じゃないんだよ」
人前では毒舌だし酷なところも多いが、2人きりになると、彼は急に大人の男に見えてくる。優しい声、表情、所作。それを私だけに見せてくれている、というのがなんとも言えず嬉しくて、milkを聞きながら思わずニヤけてしまった。すかさず光にキモがられたが。
「素直じゃないですねぇ、光くんは」
「何キャラやねん。綾乃に言われたくないわ」
「え?わたしめっちゃ素直じゃん」
「おん、でもそれバカ正直とも言うんやで」
あ、鼻で笑った。とりあえず馬鹿にされたのは伝わってきたので、頬をきつくつまんでやった。べつにバカ正直で良いじゃないか、ひねくれている光よりは。
「ひかるー」
「なんや?」
「えへへ、えっとね、好き」
「・・・・・・おん。俺も」
ほら、こうやって光の照れた表情もなにもかもが、わたしが素直なおかげでたくさん見えてくるんだから。
m
ilk
にへらと幸せそうに笑ったわたしを、そっぽを向きながら、光は優しく撫でてくれた。
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ほんわかほのぼの目指したらこうなりました、いかがでしょう?
少しでもほっこりとしていただけたら幸いです。
リクエストありがとうございました!
2012/12/16 repiero (No,82)