||わがまま


「旅行いこか」
「・・・は?」

いつも君は突然だった。
それはその時も例外なくそうだったことで、不意にふられた突飛な話題に、しばし言葉をつまらせたことを覚えている。私はテレビを見て雅治は本を読んで、あぁ、なんて平和な休日なんだろうとかババ臭くも考えていた私は、あやうく大きな煎餅の欠片を丸呑みしそうになった。それ、本気で言ってる?なんて今更過ぎる質問に雅治は笑ってうなずき、私の手をおもむろにとった。
それからなんやかんやとあって旅館の予約までとって、現在その旅館に向かっている最中だったりする。ええと、たしか私の記憶では、この会話は今から6時間前くらいにされたものだと思うんだけど。いくらなんでも行動力がありすぎないですか。

「ええじゃろ、べつに。行きたかったんやし」
「でも突然すぎるよ」
「旅にアクシデントはつきものじゃ」
「いやそれなんか違くない?」

電車を乗り継いで、タクシーに乗って。仲良いですねぇなんて運転手さんにのほほんと言われてしまった日には、顔から火が出るような心もちだ。ぎゃーぎゃーと不必要に騒ぎながら照れを隠している内、旅館に到着した。今日は一旦泊まって、明日辺りを散策する予定なんだとか。

「なー、露天風呂入らん?」
「あるの?」
「おん。今なら貸し切りやって」
「じゃあ入ろう」

「貸し切り」「露天風呂」という2つの単語につられ、いそいそと向かってみると、たしかにそこに人気はなかった。露天風呂は混浴になっているそうだ。雅治とお風呂に一緒に入るのは、いつぶりだろうか。

「きもちーっ!」
「・・・のう綾乃、ちょっとこっち来んしゃい」
「え?」

言われたとおりにそちらに寄ると、不意に彼に抱き締められた。突然のことに緊張していると、す、と彼の指が私の太ももをなぞった。

「っ・・・、な、なにして・・・・・・」
「好きな人がタオル一枚で、興奮せん男がおるか?」
「は・・・・・・」

驚きに開かれた口を閉じさせるように、唇を奪われる。さしこまれた舌は熱く、唾液によりぬるりとしていた。それに身体がびくりと震える。彼の指は私の足を何度もなぞり、その感覚がたまらなくくすぐったい。逃げるように足を動かすと、雅治の指が追いかけた。

「ふっ・・・、ぅ、ん・・・・・・」

唇の隙間から漏れる声は甘い。2人きりとはいえ、ここはいちおう公共の場所であり赤の他人が入ってくるかもしれないようなところなわけだ。いつ他の誰かの目に晒されるかわからないような緊張感と、それに対する高揚感、罪悪感とが、めちゃくちゃに頭の中で入り混じっていた。雅治の指が太ももをたどり、唯一の守りであるタオルをめくりかける。その時点で私の頭はパンク寸前で、必死になって雅治の手を止めようとした。でも雅治の力は思いのほか強くて。

「ゃ、ん・・・っ、ぅ・・・っ」

大きな手のひらが、股の付け根のすぐ側をかすめる。やばい、そろそろ堪えるのにも限界がある。秘部から白蜜がたれそうになるのを必死に押さえ、雅治の舌が口内に入れられたままなのも気にせずに歯を食い縛った。すぐに彼の舌は逃げたが、少し顔をしかめていた。

「ま、さ・・・っ、だめ、だよっ!」
「なんでだめなんじゃ?」

クスリという笑み。わかっているくせにわざわざわからないふりをするのだ、こいつは。でもそういう自分も雅治の愛撫に反応せずにはいられずに、お風呂の暖かさもあって、だんだんと思考が麻痺していった。なんだかんだいって、自分もその気にさせられてしまったわけである。どうせ人もいないんだから、このままコトを済ませてしまおうか。そう考え始めた折、更衣室の方向から、誰かの笑い声が聞こえてきた。

「やば・・・っ、ま、まさっ、誰か来るよっ」
「よく聞こえんのぉ」
「は・・・っ!?」

そうする間にも、笑い声が近くなる。このままだと非常にまずい。必死にそれを雅治に訴えるのに、彼は聞きもしない。その間にも彼の愛撫が続き、堪えきれずにうっかりと甲高い声をあげてしまった。

「・・・ひぁっ・・・・・・」
「あれ、今なんか聞こえたー?」
「さぁ。露天風呂、先に誰か入ってるんじゃない?」
「そうなのかな?でもそれにしては・・・・・・」
「・・・ま、まさ!早く離してっ!」
「なんのことじゃ?」
「・・・・・・こんの、」

ガンッッッ

「!!!?」

ものすごい音がした、と思った瞬間、雅治の手の力が緩む。直後に私は素早く雅治のもとを離れ、乱れかけたタオルを正した。雅治はその間に頭を抑えて悶絶。私の石頭による頭突きが相当効いたようだ。

「ばーか。さっさと離さないからだよ」
「っ〜〜! い、痛いぜよ・・・!」
「あんったが悪いんでしょ!?・・・じゃ、私先にあがるから」
「あ、ちょ・・・」
「・・・雅治、続きは後で・・・ね?」
「!」

綾乃、と名前を呼ぼうと動いた彼の声は、後から入ってきた女性たちの声に遮られた。かっこいい人がいるーだのなんだの。でかい声でうるさいったらありゃしない。少しは慎まないんだろうか。でもまぁ、うまいこと逃げられたから良いとしよう。

(あー・・・。また甘やかしちゃったよ)

どんなに厄介なわがままでも、けっきょく最後までそれに応じてしまう私は、彼に相当甘い。そんな自分に溜息をついて、部屋に戻った後のことを考え始めるのだった。


まま


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エロシーン少なめです。
リクエストありがとうございました!

2012/12/10 repiero (No,81)


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