||反応


「べーーーーーさーーーんっ!!」

突然とばかりに生徒会室に響き渡った声に、俺はゆっくりと頭をもちあげた。

「べーさんべーさん!事件だよっ!!」

興奮した様子でこちらに歩み寄ってきたのは、俺の幼馴染である峰里綾乃。イギリスにいた頃の数少ない日本人の友人だが、数年前にようやく日本に戻ってきた。彼女は黒い短髪をゆらして俺の前で何度も拳をつくり、一体何がそんなにも「事件」だったのかを熱く語り始めた。

「なんかね、ユーシがっ、ユーシがねっ!」
「わかった。わかったから一度落ち着け。・・・で、アイツがどうしたんだ?」
「あのね・・・、」

「ユーシが、彼女に振られたんだって!!」

「・・・は?」

シーン。
芸人が一発ギャグですべった時の空気とでもいうべきか、それとも突然大声を発してしまった時の教室の空気とでもいうべきか。とにかくそんな空気が流れた。当の本人は悪気どころかそれに一切気づいておらず、きょとんと首をかしげていた。
正直言って、あの男が女に振られるなんてのは日常茶飯事なわけで、別にとやかく騒ぎ立てるほどのことでもないというのが俺の見解。しかし彼女の場合は違う。そこについて突っ込んで良いのかそれとも素直に驚いたような反応を見せたほうが良いのか、はたまた呆れて見せれば良いのか・・・。

悶々と悩んだあげく、俺はけっきょく黙って彼女の頭を撫でてやることにした。

「ん?べーさん?」
「良かったな」
「・・・、うんっ!」

にぱっ、と嬉しそうな笑顔を見せた綾乃に、どうやらこれで正解だったようだとひとまず胸をなでおろした。大きなくりくりの目がこちらを見つめる。柔らかな髪を撫でる手はゆったりとしているが、正直なことを言えばこのまま引き寄せてキスのひとつでもしてみたい。それが彼女にとって良いか悪いかはわからないが、幼い頃から自然と抱くようになっていたこの気持ちはいつまでも隠しとおせるものではないだろう。

「えへへ、べーさんの手、おちつく」
「そうか」
「あたしべーさんが一番好き!」
「そうか、俺も好きだ」
「ほんと?一番?」
「あぁ」

するとやはり嬉しそうに綾乃は笑って、一点の曇りもない瞳でこちらを見上げた。このまるで幼子のような表情は、時々、ほんとうに同い年なのかと疑いたくなる。

「あ、そういえばね。この間はぎのすけが変なこと言ってたの」
「・・・アーン?変なこと?」
「うん。なんかね、あたしがべーさんに言う『好き』は、他の人とは違うんだって」
「・・・・・・そうか」
「違うって、どういう意味なのかな?」
「・・・、教えてやろうか?」
「えっ、ほんと?・・・へ、」

ぱっと顔を輝かせた彼女にひとつ笑みを零して、無防備な綾乃の唇にそっとキスを落とした。





さすがに意味を理解したのか、みるみる顔を真っ赤にしていく綾乃を見つめ、俺はにやりと笑みを深めていった。
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リクエストありがとうございました!

2012/11/9 repiero (No,75)


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