||愛を語る


ある日の夜のこと、私は街明かりの中で静かに君を待つ。薄く雪化粧した町はクリスマスも近い為かイルミネーションに彩られ、眩しいほどにキラキラと色を放っている。腰掛けたベンチのすぐそばには巨大なクリスマスツリー、天辺に輝く銀色の星は、イルミネーションの光を受けて様々な色を見せていた。

街行く人々のほとんどは、仲の良さ気なカップルや子連れの家族達。それに混じって仕事帰りのサラリーマンや、寂しい独り身の人たちが通っていく。それを何とはなしに目で追いつつ、ふ、と息を吐いた。

時計を見る。待ち合わせの時間まであともう少しだ。

直前に用事があった為にそちらへ寄っていたのだが、それを済ませた後では家に帰る時間がなかったので、そのまま待ち合わせ場所に来た。しかし、到着時の時間は待ち合わせ時間の30分前。これからそんなに待たなくてはいけないのかと溜息をついたのは、もう遠い昔の事のようにも思える。

吐き出す息は白く、かじかんだ指先はわずかに感覚を失っている。寒いなぁ、と小さく呟いてはみるが、それに答えてくれる人は当然いない。
本当の事を言えば、寒さというのはあまり気になっていなかった。私にとっては、この街の風景の方がよっぽど気にかけるのに価値があるものだと感じられていたから。降り積もる雪の白は、まわりの景色のせいで少し霞んで見える。

暇つぶしに携帯でもいじろうかとポケットに手を伸ばしたところで、

「ちょっとお嬢さん」

と声をかけられて動きを止めた。ふと顔をあげれば、2人の男が目の前に立っている。景色に夢中になっていたせいで気がつかなかったらしい。

「・・・何か、御用でしょうか」
「君可愛いねー、俺たちとこれから遊ばない?」

にこにこと、男の内の一人が言葉をかけてくる。私はそれを若干冷ややかな目で見つめ、はぁ、と溜息をついた。なんて古典的な。

「・・・あの、彼氏いるんで」
「良いじゃん、彼氏なんてほっとこーよー」
「放っておくと後が怖いんです」
「え?なに、嫉妬〜?そんな女々しい奴尚更ほっとけよー」

あはは、と男達が笑う。

「彼氏が待っているんですが」
「あ、もしかして待ち合わせしてたの?」
「でもいつまで経っても来ないみたいじゃん?だったら俺たちと・・・」
「ですから、彼氏『が』待っていると言っているんですが・・・・・・」

にこり、と微笑む。それに男達が一瞬首をかしげ、それからうわ!?と間抜けな声をあげた。そうして男達が反射的に振り返った先には、

「君たち・・・。人の女に手を出してただで済むと思ってるのかな?」

と、黒く笑う精市の姿が。グッドタイミング、精市。待ってたよ。

「・・・ちっ、行くぞ」
「待ちなよ、まだ話は・・・」
「良いよ、精市。話し相手になっててくれただけだから」

ふふ、と笑うと、少し不満げに精市は言葉をとめた。しかしすぐに、まぁ、良いよ。と持ち直す。

「ごめんね、待たせたみたいで」
「ううん、私が早く来過ぎただけだから。・・・いこ」

きゅ、と精市の手を取って、足を踏み出す。精市も嬉しそうに微笑んでから私の隣を歩き出した。いつもの穏やかな笑みだ。

幸村精市。優しげな風貌とは裏腹に、腹黒い一面を持つ男だ。かなり容姿の整っている為に、いつも彼の周りには女の子達が多くいる。
そして、そんな彼の彼女である私。悲しい事に、私は特別可愛いわけでも、頭が良いわけでもない。普通より少しは良い方だと自負しているが、それでも普通は普通。とりわけ目立ってすごいところがあるわけでもない。

まぁ、そんな私は精市に対して常日頃思うことがあるわけで。毎回返ってくる答えは一緒、でもどうしても何度も聞きたくなってしまう。だから私は、今日もまたいつもと代わらぬ質問を精市にした。

「ねぇ、精市は私のどこがすきなの?」

すると精市がこちらを見つめ、それから笑って口を開いた。

「そんなの決まってるじゃないか」

「・・・全部だよ」
「・・・え?」

いつもとは全く違う回答に、私はきょとんと精市を見つめた。精市は私を見つめて微笑むばかりで、何も語ろうとしない。普段なら、どこが好きだここが好きだとたくさんの言葉を並べてくれるのに。
それを期待していた私は、あまりにもあっさりとした回答に少し拍子抜けした。

「だから、全部は全部。・・・綾乃の良いところも、悪いところも、全てひっくるめて愛してるよ」
「へ・・・、」
「それとも、いつもみたいに細かく愛を語ってほしい?それだったらいくらでも言えるけど。・・・まず、」
「精市、精市」
「ん?なに?」
「も、良い・・・・・・」

顔を真っ赤にして、慌てて精市を止める。どうしてだろう、いつもより寂しい答え方なのに、数倍も嬉しい。ドキドキと心臓が高鳴った。

「良いならいいけど。でも俺の愛を止めた罰ね。今度は俺の質問に答えてよ」
「う、わかった。なに?」
「・・・綾乃はさ、俺のどこが好きなの?」
「え・・・・・・」

言われて、きょとんとした。今まで、そんな質問を精市からされた事はなかったから。私が聞いて、答えてもらって、それで終わりだ。やっぱり、今日の精市はどこかいつもと違う気がする。
どう答えたものかと視線を彷徨わせていたら、精市の笑顔とぶつかった。それを見てまた顔が赤くなった気がして、私は咄嗟に顔をそむけた。

「・・・・・・き」
「ん?」
「・・・精市の事は、全部好き」
「・・・・・・はぁ、もう」

少し呆れたように、でも嬉しそうな声色で精市が溜息をつく。恥ずかしくてそちらを見れずにいる私を精市が優しく抱きしめてくれる。それに、また顔が赤くなった気がした。

「ほんと綾乃は可愛いね。愛してるよ」

ちゅ、とわざとらしくリップ音を立てて、精市が私にキスをする。驚いて口をパクパクとさせる私に、精市が悪戯っぽく微笑むのだった。


を語る


――――――――――――
幸村さんに頑張っていただきました。
無駄に背景描写に力を入れすぎたせいで長い(--;)

瑞夏様、相互&リクエストありがとございました!

2012/2/22 repiero (No,20)


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