||最愛の人


とある昼休みのこと。私は考え事をしながら廊下をひとりで歩いていた。頭に浮かぶのは、学校中の人気者である仁王君の事だ。仁王君とは2年生の時にクラスが一緒で、一度だけ席も隣になった事がある。その時に、私は彼の事をどうしようもなく好きになってしまった。近くで見る彼は噂で聞くのとでは全然違って、それに異常じゃないかって思うぐらい、惹かれた。ただの「隣の席の有名人」だった彼は、いつのまにか私の「初恋の人」に変わってしまったのだ。どうせ彼は私の名前すら覚えていないだろうけれど、それでも私にとっては未だに彼が「初恋」のままだ。叶いっこない恋だとは思うけれど、同じクラスの柳生君に相談に乗ってもらったりして、前向きに頑張ろうと思っていたりする。

「・・・った!」

ドン。派手な音を立てて私は誰かと衝突した。数歩後ろによろめき、そのまま尻餅をつく。普通に歩いてただけなのに、まったく誰だよ。角で人とぶつかるなんてどこの少女漫画だ。あー、これが仁王君だったら良いのにな、って、え?

「すまん、大丈夫か?・・・って峰里・・・?」
「あ、れ、仁王君?」

わお、まさかの偶然だったよ。仁王君に手を差し出され、戸惑いつつもそれを取って立ち上がった。やば、顔赤いかも。っていうか仁王君、私の名前覚えててくれたんだね。苗字でも嬉しいよ。

「久しぶりだね、元気?」
「お、おん・・・」

仁王君は困ったような顔をしていた。私と話すのが嫌だったのかなーなんてマイナスな思考が頭に浮かぶ。でもどうにも彼が落ち着かない様子だったから、顔を覗き込むようにしながら尋ねた。

「あの、仁王君、もしかして気分悪い?」
「・・・いや、そういうわけじゃなか。そうじゃなくて・・・」
「?」
「・・・・・・峰里に、久しぶりに会ったから緊張しとるんじゃ」
「え・・・」

少し赤い仁王君の横顔。口元を手で覆って、それを隠してる。うわ、こうしてみるとなんか普通の男の子みたいだな。普段とのギャップがなんか可愛い。というかその前に、すごいこと言われなかったか私。自分の頬に触れると、すごく熱くなっていた。

「仁王君、その・・・・・・」
「峰里」
「ふぇ?あ、はい」
「今しか言えん気がするきに、言っとく」
「? なにが・・・、えっ、」

直後、仁王君の顔が私の耳元まで近付いて、小さく、何かを呟いた。それから仁王君は何も言わずに私の後ろの方へ通り過ぎていって、その数秒後、私はようやくその言葉の意味を理解した。

「おや、綾乃さん。どうしたのですか、顔が赤いですが・・・」
「や、柳生君・・・・・・」

私の赤い顔を見て、柳生君が眉を寄せた。それから私の後ろに視線をやって・・・、どうやら、遠くの方に仁王君の後姿でも見つけたらしい。彼の表情が一気に険しくなった。なんで、って思ったけど、でも彼に言われた「好き」って言葉が自分の中で大きくなり過ぎて気にする暇も無かった。

「告白、されたのですか」
「・・・たぶん、」
「・・・・・・結局、こうなりましたか・・・」
「え?」
「いえ、なんでもありませんよ。あなたがそちらを選ぶのなら、私は大人しく身を引くまでです」
「・・・柳生君?」

不可思議な言葉を残して、柳生君は悲しげに微笑んで廊下を去っていった。後には私一人だけが残される。私はその真っ赤な顔のまま、思い立ったように仁王君の消えたほうへと走り出した。


の人


すぐに追いついたその背中に、思いっきり抱きついた。
――――――――――――
柳生要素が薄くなってしまいました。
本当はもっと長かったんですが、設定が多すぎた上に長くなりすぎてしまいそうだったので、3分の2以上カットする羽目になりました(--;)

リクエストありがとうございました!

2012/8/12 repiero (No,61)


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