||身長差


「よい・・・っしょ!」

ガタンッ、と音を立てて脚立が立ち上がる。なんとかセッティングを終えられた。ここまでにかかった時間、5分。あれ、3mくらい移動させるだけなのにな。

「えーと、1028から1045までか・・・今日は少ないな」

手に持ったリストを見つつ、カウンターまで本を取りに戻る。図書委員である私は、放課後、時々こうして本の整理に図書室へ訪れる。図書室は平日だろうと休日だろうとかなりの利用者がいるので、時々本を整理してやらないと、本がどこにおいてあるかわからなくなってしまう事があるのだ。

「よっ・・・、ほっ」

カウンターに置かれていた本は5冊。ここ最近、貸し借りがあった本だ。後は本棚のどこかに対象番号の本があるはずなので、それを探し出して指定の場所へしまわなくてはならない。
ちなみに先程の脚立は、中3にして身長138cmというなんとも可哀想な身長の私の為に用意されているものだ。元々司書室の奥に置かれていたものを、先生が私の利用しやすい位置に移動させてくれた。ありがとう、感謝してるよ田中先生。

今日の整理対象は17冊なので、先程の5冊を抜けば、後は12冊探せば良いということになる。しかし本棚を見る限り、大体の本はきちんと指定の場所へ置かれているようなので、今日は楽に作業を終えられそうだ。

「えーっと、これは・・・1039番か」

脚立をのぼり、一番上の列へ番号順に並べていく。放課後と言えど、ほとんどの生徒は部活動があるので今の時間は人は少ない。それも部活をサボる為とか、純粋に本を読む為とかにきている人が多いので、しがない図書委員である私を手伝ってくれる人は誰一人としていなかった。一人くらいはいたって良いのに。

「うわっ、と・・・」

本を入れようと身を乗り出したところで、ぐらりと脚立が揺れた。私以外に使用者がおらず、もう随分と使われていなかった為か、相当にガタが来ている。後で先生に言っておこうかな。そうでもなきゃ、せめてもう一人一緒にやってくる人が欲しい。

「うわわっ、」

少し体重を傾けただけで大仰なまでに揺れるので、なかなか作業が進まない。おまけに下を見たら結構な高さがある事に今更気がついて、足がすくんだ。やばい、怖い。そして下りられない。

「うぅ・・・、どうしよう・・・」
「・・・・・・大丈夫か?」

脚立の上で困り果てた私に、後ろから声がかかった。バランスを崩さないようにそっと振り返れば、そこにはこの学校ではかなり有名な糸目のお兄さんが。

「・・・柳、蓮二さん?」
「そうだが」

あぁ、やっぱり。あれ、でもテニス部の柳さんがここにいるって事は、もう部活終わったのかな?・・・うわぁ、もう7時前じゃん。って事は、今日テニス部延長なしなんだね。

「・・・お前が図書委員で、本の整理に手間取っている確率、99%」

確率高っ!? いや合ってるけども!
私の表情からそれが正しい事を読み取ったのか、柳さんは小さく微笑んで私の手から本を取った。

「え・・・っ、」
「番号順に並べれば良いのだろう?」
「え、あ、はい」

思わずうなずいた私を横目に、柳さんは本の整理を手伝い出した。私が呆然とそれを見ている内に、どんどんと本の整理が終わっていく。
うわぁ、なんかムカつく。でも良い人だな。
柳さんは、私が今日やる予定だった17冊も含め、近辺の本の整理をほとんど終わらせてしまった。手際が良いっていうか、なんていうか。私、何もしてないんだけど。

「・・・ありがとうございます」

脚立の上から、柳さんの方へぺこりと頭を下げる。すると突然脚立が揺れ、私はその拍子にバランスを崩して前のめりになった。

「きゃっ・・・、!?」

そうだった、この脚立ボロボロなんだった!! やばいっ、落ち・・・

「・・・大丈夫か?」
「・・・・・・ふぇ?」

すぐ近くで声が聞こえ、ぎゅっと瞑っていた両目を恐る恐る開くと・・・、何故か、誰かに抱き抱えられているような感覚があった。足はそのまま脚立の上に両足をついており、上半身だけが脚立の向こう側へと倒れこんでしまったようだ。そしてそれを支えてくれているのは・・・、

「・・・柳さん?」
「そうだが」

・・・ん?って事はちょっと待て。私これ、柳さんと抱き合ってね・・・?

「っ!!」
「少しの間、暴れるなよ」

落ち着いた声音が聞こえたと思った直後、身体がゆっくりと浮き上がった。混乱して身動きがとれない私を他所に、柳さんは軽々と私を持ち上げ、床におろした。

「・・・っ」

へなへなとその場にへたり込む。再び大丈夫か、という声の後、手を差し出された。それを取ろうか取るまいか数秒迷った後、柳さんに手を掴まれて立ち上がらせられる。

「怪我はなかったようだな」
「っ・・・!! あっ、ありがとうございましたっ!!」

真っ赤になって慌てて頭を下げれば、彼が優しく微笑んだのがわかった。そのまま頭を撫でられ、驚いて頭を上げれば柳さんは既にその場を去った後だった。

「ふぇ・・・、」

全身の力が抜けて、私はまたもその場にへたりこんだ。どうしよう、ドキドキが止まらない。





「・・・って事があったんだよねー」

場所と時間はかわり、それから1年後の、とある喫茶店での事。窓際の席に、向かい合って楽しそうに会話をする男女の姿があった。

「蓮二、覚えてる?」
「あぁ、覚えている。お前はあれから全く身長に変化がな「あーーー、うるさーい!!」」

慌てて蓮二の口を塞ぐ。彼の言うとおり、私の身長はここ1年でほとんど変化がなかった。一応140cmには到達したものの、まだまだ平均身長には遠く及ばない。というか、蓮二もまた身長を伸ばしてしまったので(どんだけ伸ばすつもりだろう)、いつまで経っても「理想の身長差」には追いつけないのだ。

「どうせ私は小さいよーだ・・・」
「ふっ・・・、小さい方が可愛いと思うぞ」
「・・・!!」


長差


その後、真っ赤になって私が慌てたのは、言うまでもない。
――――――――――――
タイトルがなかなか決まりません。
リクエストありがとうございました!

2012/8/7 repiero (No,58)


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