||10の障害は案外脆い


10個も年上のお姉さんがいる。俺が小学生の時に近所に越してきた人だ。だから幼馴染というわけではないけれど、けっこう馴染みはあって仲が良い。25にもなって彼氏いない歴=年齢のちょっと寂しい人だけど。
でも姉さんはすごく美人だ。明るいし、まっすぐだし、何より優しい。だから姉さんは別に"モテない"んじゃなく、"近寄りがたい"んだろう。まぁ、俺が近寄らせないけど。
姉さんは俺の初恋で、そして現在もその恋は続いている。姉さんに近寄る悪い虫の対処は、全部俺がやってきた。・・・あ、だから姉さん告白されないんだった。だって姉さんが他の奴にとられるのは嫌だからね。
・・・でも、いつまでもそれが続くわけじゃない。仕事先とか、俺の手の届かない、見えないところは山ほどある。そこで姉さんが恋をする可能性だって勿論。逆も然りだ。だから、俺はうっかり姉さんに隙を作ってしまった。・・・今回の事は、俺が原因なんだ。

「精市、どうしよう・・・」
「はぁ・・・、知らないよ」

若干冷ややかな目で、彼女を見つめる。俺の気も知らないで、そんな相談してくるなんて。正直殴ってやりたいぐらいだ。でもそんなわけにはいかないから、黙って彼女の話を聞く。
話によれば、彼女は仕事の同僚に告白されたらしい。しかも、「結婚を前提にお付き合いしてください」という、よくあるセリフで。俺のガードもあり、告白なんて初めてだった上にいきなりそんな重大な言葉。彼女が混乱するのも無理はない。
でもだからって、俺に相談するなんて。頼りにされるのは嬉しい。でももう少し、考えようがあったんじゃないか。さっきから俺が考えるのはそればかりだ。

「でも、相手の人は真剣だし、簡単に断るのは・・・」
「・・・なら付き合っちゃえば良いじゃないか」
「・・・え?」
「俺は知らないよ。・・・ったく」

もう半分自暴自棄になりつつ思わず飛び出た言葉は、そんな冷たいものでしかない。本当はそんな事全然思ってなくて、姉さんが付き合うのなんて絶対嫌だと思っているくせに、そんな事を言ってしまう。
対し姉さんは、目を大きく見開いてこちらを見つめたまま。さすがに、驚いたらしい。その表情に悲しげなものが混じっていたのは、俺の気のせいなんだろうか。

「・・・そだよね。精市は、私の事なんて・・・・・・」
「・・・姉さん?」
「なんでもない。・・・相手の人には、明日返事を返すことにするよ」
「・・・・・・そっ、か」

自分で言ってしまった事なのに、その事実が重い。きっと彼女はOKの返事を出す。俺の事なんてこれっぽっちも気にする事無く。・・・そして、いつか結婚するんだ。俺の知らない男と、幸せそうに笑って。
それを想像しただけで、無意識にギリ、と奥歯が鳴った。姉さんがこちらの顔をのぞきこんで、心配そうに見つめている。俺はそれに弱弱しく微笑んで、隠すように両手で顔を覆った。
彼女の優しい声が、表情が、今は俺を酷く苦しめていた。





翌日。精市達も部活や学校が終わるような時間帯。私は仕事の同僚である彼と、家の近くの喫茶店に2人で座っていた。

「・・・ごめんなさい、呼び出したりして」
「いっ、いえ!大丈夫です!」

緊張した面持ちではあるものの、相手の・・・高橋さんは笑顔だった。その笑顔が、ほんの一瞬だけ精市の笑顔と重なる。彼と高橋さんとでは、何もかもが違うのに。

(・・・私、まだ悩んでる)

昨晩、眠れない中で一晩中考え込んで出した結論なのに。それでも私はまだ精市に期待をしてる。馬鹿だね、最初から私の方なんて見てくれてるはずないのに。だって私と精市は、10歳も年が離れてるわけで。

「・・・高橋さん」
「は、はい!」
「この間のお返事・・・、こちらこs「綾乃姉さん」・・・え?」

私の声に被さるようにして、よく見知った声が聞こえる。それに振り返れば、そこにはあれだけ私を悩ませた精市の姿があって。思わず目を見開いて、なんで、って呟く。精市は、今頃部活が終わって家でゆっくりしているはずだったから。
精市、って呆然と声をかけようとしたところで、くい、と彼に手を引かれた。それにつられて、軽く腰を浮かす。どうしよう、と高橋さんの方を見ようとしたところで、もっと強く手を引かれた。
そうして精市の後ろに隠されるような形になってから、精市が高橋さんの方を見つめ、にっこりとした笑顔で言った。

「ごめんね、高橋さんって人。・・・綾乃は、俺のだから」
「・・・へ、」
「それじゃ姉さん、行こうか」
「せ、精市っっ!?」

今のって、と訪ねる暇も無いまま、精市に腕を引かれて私は店を飛び出した。彼の掴む力が強くて、少し腕が痛い。精市は無言。私もその雰囲気に呑まれて何もいえなくて、ただ黙って腕を引かれていた。
喫茶店から大分離れて、家の近くまで来たところで、精市が止まった。でも精市は振り返らない。しばらく沈黙が続いた。

「・・・・・・姉さん」
「・・・な、に」
「好きだよ」
「え・・・・・・」

そこで初めて、精市が振り返った。真剣な顔をして、こちらをまっすぐに見つめてくる。私はそんな精市の表情がすごく大人に見えて、ごくりと無意識に唾を飲み込んだ。

「今まで、姉さんと俺の年の差ばっかり考えて、諦めてた。でもやっぱり、姉さんが他の奴に奪われるのは嫌なんだよね」
「せ、いち、」
「ねぇ、姉さん。・・・いや、綾乃」
「!」
「・・・好きです。いつか俺が大人になったら・・・、俺と、結婚してください」

そう言って、精市がふ、と微笑む。どこまでも真っ直ぐな、精市の瞳に見つめられ、吸い込まれそうになる。「姉さん」ではなく「綾乃」と呼び捨てにして私を呼ぶ精市の声に、心臓がドキドキと高鳴って、うるさくて。

「・・・姉さん?」

突然抱きついた私に、精市が驚いたような声をあげる。私の背へと回された手は、大きい。それにきゅ、と抱きしめる力を強めて、に、と笑った。それから、精市を見つめて、

「・・・・・・待ってる!!」

と笑った。それに精市が、ほっとしたように微笑み返すのだった。


10害は案外


(大好きだよ、って言ったら、精市が笑った。幸せそうに、嬉しそうに)
――――――――――――
初めてのリクエストをいただきました!
稚拙な文で大変お恥ずかしい限りですが、お楽しみいただけたら幸いです。
リクエストありがとうございました!

2012/2/8 repiero (No,9)


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