||背中合わせ


「綾乃」
「ん?」

愛してる、と囁くような声が聞こえたと同時、唇に柔らかいものが触れた。私はそれを無抵抗に受け、嬉しそうな表情をつくった。すると相手も嬉しそうに笑って、じゃあまた、なんて言って背を向けた。私はそれを見送り・・・口付けられた唇を拭う。
好きでもない恋人の相手をするのには、もう当の昔に慣れてしまった。これでもう、私は何人の男と偽の愛を交わしたんだろう。私の恋人への愛情は0に等しいというのに。
頭に過ぎった人物の事を考え、胸が締め付けられた。彼に会いたい。

「・・・もしもし」

慣れた手つきで「彼」へと電話をかける。勿論、さっきの恋人ではない。電話の向こうから聞こえてきた声に、私は無意識に微笑んだ。

『やぁ、久しぶりだね。どうしたの?』

用件は伝えない。今から行く、と短く言って、私は電話を切った。きっと彼は私の用件をそれだけで理解してくれたであろう。私たちは「そういう関係」なのだから。閉じられた携帯を見つめて、私は小さく息を漏らした。そうしてその場から静かに立ち去った。





「会いたかったよ」

彼は笑顔で迎えてくれて、おまけに優しく抱き締めてくれたりなんかして。私たちには互いに恋人がいて、私と彼はいわゆるセフレでしかない。それなのにこんなにも温かい彼が、私は好きだった。ずっと前から変わらない、私の最愛の人。でもそれは恐らく私だけの思いだろうから、伝えた事はないが。
精市は私の手を引き、ベッドまで移動した。何も言う事無くそのまま押し倒されるが、特に抵抗はしなかった。当り前だ、今日の目的は彼に会う事とセックスをする事なのだから。
互いに服を脱ぎ、噛み付くように唇を重ねた。何度も触れるだけのキスを繰り返し、やがてそれを深く長く変えていく。

「ん・・・、ふっ・・・」

精市からしてみれば、私なんていてもいなくても良い存在なんだろう。いや、精市には恋人もいるのだし、いない方が良いのかもしれない。でも、私にとっては違う。私は彼が好きだから、例え嘘でもつながりたいのだ。

「また感度良くなったんじゃない?」
「んぁ、はっ・・・、そう、かな」

敏感に私の変化に気がついてくれる事が嬉しかった。精市は私の胸の頂を口に含み、吸い上げたり、甘噛みしたりと様々な愛撫を続ける。やがて彼の細長い指が、私の割れ目をなぞった。

「ぁっ、ふぅっ・・・」

すでに少量の蜜を溢れさすそこに、精市は少しずつ指を押し入れていった。ぐちゅ、ぐちゅ、と響くのは淫猥な音。

「んっぁ・・・はぁっ、はぁっ・・・」
「クスッ・・・可愛いよ」

余裕の声に、小さく笑った。指はいきなり3本へと増え、痛みに顔を顰めた私をよそにバラバラと中をかき乱す。そしてそれが引き抜かれた時・・・私は、次にくる快楽を覚悟して無意識に笑んだ。

「いれるよ」
「っぅ・・・ぁあ、ああああっ、」

彼のモノが粘膜とこすれて、それが酷く気持ち良かった。しかしすぐに、違和感に気がつく。彼は、コンドームをつけていない。

「ぁっ、はぁっ、あっ・・・」

しかし私に余裕はなかった。それに彼が相手ならば、例え妊娠しても構わない。精市がゆるゆると動き出すのを感じ、私もそれに合わせて腰を振った。その動きは徐々に加速していく。

「あっ、ぁっ、ぁあっ、あっ、」

もう何も考えることができなかった。彼の匂い、その猛り。それだけを全身で感じながら、伝えることの出来ない思いにじれったい様な感じを覚えた。もうすぐイく、そう思った直後、彼のモノが引き抜かれ、私の腹の上に大量の精が吐き出された。それと同時に、自分もイった。

「ごめん、汚したね」

タオルで身体を拭われ、私は小さく首を振った。精市のものに嫌な気などしない。

「・・・出してくれても良かったのに」

思わず呟いた言葉に、彼が目を見開く。失言だった。

「好きでもない男なのに?」
「・・・・・・私はそんな安い女じゃない」

唇を噛んでそう言えば、精市が黙った。それから静かにこちらを見つめて、

「それは俺の事が好きって言ってるように聞こえるけど」

と言った。しばしの沈黙。私は決心したようにうなずいた。あなたが好き、と、確かめるかのように。すると彼は何も言わずに携帯を取った。連絡先は誰だろうと思ったが、私にはわからない。

「もしもし、佳苗?」

・・・しかし精市の呼んだ名前は、彼の恋人のものだった。何を言うんだろう、って思った。精市はこちらにちらりと視線を寄越し、僅かに微笑んだ。ごくりと唾を飲み込む。

「あぁ、俺だけど、別れてくんない?・・・じゃ、そういう事で」

・・・え?
驚きに声がでない。幻聴なんじゃないかと思った。なによりも、彼の行動の意味がわからなくて。混乱した様子の私に、彼は笑って

「俺も、好きだから」

と囁いた。そうしてもう一度、優しく押し倒された。


中合わせ


――――――――――――
リクエストありがとうございました!
設定が細かかったので書きやすかったのですが、なかなか難しいですね。

2012/7/15 repiero (No,51)


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