||生存確率


「なぁ、人類っていつ滅亡すんのかな」

茜色の教室で、彼は突然そんな話題を持ち出した。
その時私は彼と一緒に反省文を書いていて(正確には彼の反省文を手伝わされていて)、どんな文章にすれば良いかと頭を悩ませていた。何かと遅刻の多いブン太は、適当に済ませた反省文なぞでは先生を納得させられない。そろそろ毎朝のお迎えが必要かと思う頃だ。だから私は、彼の為に一生懸命反省文の内容を考えていた。
さて話は戻るが、あまりに唐突に持ち出されたその話題に、私は暫し呆けたような顔をしてブン太を見た。しかしすぐに眉を顰め、それから視線を反省文の方へと戻す。

「いきなりなに?最近の流行なの、それ」
「どういう発想だよぃ」
「私が聞きたいわ。良いから早く考えろ」

こっちは必死になって反省文を考えているのに、当の本人は私以上にのん気なのだから。反省文はようやく半分を越えたところで、時間的にあと30分で原稿用紙を埋めなければならない。この程度の紙切れ、普段ならば10分もあれば埋められるというのに。しかしそれで完成させたとしても、やり直しをくらうのがオチだ。

「もし人類が滅亡したら、俺たちの生存確率ってどんぐらいだろうな」
「いや滅亡したなら生存確率も糞もないでしょ。・・・はいこれ写して」
「だるっ」

だるいのはこっちだ。なんで恋人だからって私が手伝わされているのかがわからない。せめてもう少し真面目に取り組んで欲しい。

「じゃあ俺らが死ぬのって何番目だと思う?」
「滅亡する程の事が起きるなら、ほとんどの人は一斉に死ぬでしょ」
「あーなるほど」

ブン太は適当に文章を写し終えると、シャーペンを机に置いた。考える気は相変わらず無いらしい。

「っつか、俺らレベルの低脳じゃこんなんわかる訳ねぇよな」
「俺らって誰よ。私も入ってるの?」
「当り前だろ?」
「・・・まぁ良いけど」

低脳と言われたのは腹が立ったが、わからないというのは実際の事だったので何も言わないでおいた。

「・・・でもブン太は、別に隕石とか降って来なくても食べ物がなくなったら死にそうだよね」
「いや誰だってそうだろぃ」
「私は甘いものが無くなったら死んじゃうかな」
「大して変わらねぇじゃねーか!」

憤慨した様子でブン太が声をあげる。別に間違った事は言っていないと思うんだけど。私は一度顔を上げ、軽く彼の方を眺めてからシャーペンをカリカリとルーズリーフに走らせた。

「っていうか、俺は食べ物無くても栄養失調じゃなきゃ死なねーし」
「えー、食べるの大好きじゃんブン太。じゃあどうなったら死ぬの?」
「んなの決まってんだろ」
「なによ」

不貞腐れたように尋ねた私に彼は一言、

「お前がいなくなったら、だよぃ」

と、恥ずかしげもなく言い放った。

「・・・うわー」
「うわーってなんだよい、うわーって」
「・・・いや、なんでもない、です」


確率


不覚にもドキッとした自分がいた。
(あーあ、反省文めんどくせぇな)
(・・・そうだね)
――――――――――――
データが消えるという不幸な事件がありました。
無駄に時間がかかってしまいましたが、なんとか完成です!

あいるさん、リクエスト&相互ありがとうございます!

2012/7/12 repiero (No,50)


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