||能天気彼女!


「光!明日暇?」

久しぶりのデートの誘いは、綾乃からだった。





待ち合わせ場所についたのは集合時間の5分前で、周りからの視線を受けながら俺は広場に入った。すでに彼女である綾乃は到着していて、どちらかというと遅れることの多い綾乃にしては珍しいなと思った。白いフレアスカートを着た彼女はとても大人っぽく見える。俺が声をかけると彼女は嬉しそうに微笑んだ。

「それじゃ、行こっか!」

彼女と向かったのは、デートでよく来る喫茶店だった。

「私オレンジジュース!」
「烏龍茶」

それとクッキーを一皿注文して、2人でくだらない事を話して駄弁る。綾乃は意味も無くストローをくるくると回しながらオレンジ色の液体を見つめ、俺はそんな綾乃を見つめながらほんの少しだけ微笑んでいた。

「綾乃って子供やよな」
「むー、なにそれ」
「いや、別に。そう思っただけや」

俺が小さく笑うと、彼女は不満げに頬を膨らませる。そういう子供っぽいところが可愛いのだ。この手のタイプは苦手だと思っていたが、好きになってみると案外それが普通に思えた。

「大体さー、光はいっつも私の事馬鹿にするよねー」
「はいはい、すまんって。・・・あ、口元」
「え?」

そっと指を伸ばして、彼女の口元に付いた食べかすをすくう。そのまま自分の口へ運ぶと、ほんのりと甘い味が口に広がった。綾乃はそれを見つめて赤面、そして軽く俯いてしまう。

「なに赤くなっとんねん」
「・・・べっつにー」

果たしてそれは、食べかすがついていたことが恥ずかしかったのか、それとも俺にああされた事が恥ずかしかったのか。後者であったら嬉しいと、頭の隅でそう思った。

「・・・あ、ごめん電話や」
「あ、うん。いってら」

相手は白石部長。このタイミングで電話とは、狙ってかけたんじゃないかと疑いたくなる。俺は一旦席を外し、人の少ないところに来てから電話に出た。

「なんすか」
『お、ちゃんと出たな。おまん、今彼女さんとデートやろ』
「知ってるならかけんといてください」
『悪い悪い。どうせ財前の事やから彼女さんいじめてはるんとちゃうやろなー思て』
「はぁ」
『ま、下手に刺激して彼女さんに嫌われんようになー。じゃ、おおきに』

プツ、と一方的に電話が切られる。俺は携帯を見つめて顔を顰め、ひとつ溜息をついた。嫌われないように、なんて自分でもわかっている。

「・・・余計なお世話や」

不貞腐れたように呟いて、綾乃の元へと戻った。
・・・いや、正確に言えば、戻ろうとした。

「・・・なんやあれ」

目線の先にあったのは、見知らぬ男と談笑する綾乃の姿。恐らくはナンパだろう。綾乃は彼らがそれと気付かぬまま、会話を続けている。端々にその内容が聞こえてきて、俺は静かに彼らへと歩み寄った。

「えー、そうなんですか。じゃあ彼氏が来るまでお茶してましょうか?」
「良いの?彼氏さん嫉妬するんじゃないのー」
「嫉妬?なんでで「綾乃」・・・え?」

呆れ半分、怒り半分に声をかければ、綾乃の驚いたような顔と視線が絡んだ。男達は俺を見るなり舌打ちしてそそくさと帰っていき、俺はさっきまで座っていた場所にどかりと腰掛けた。それから睨むように綾乃を見る。
彼氏が来るまでお茶だなんて、よく言えたものだ。一回その口塞いでやろうか。

「光、いたんだ」
「おん。嫉妬で身が狂いそうやったわ」
「・・・嘘つけ」
「ほんまや。こう見えても嫉妬深いねんで」
「・・・・・・」

綾乃は数回目を瞬かせた後、自分の非を悟ったのか小さく謝ってきた。しかし俺はそれに柔らかく微笑みかけて、机越しに彼女の頭を引き寄せた。ガタリ、という音がして、俺と綾乃の唇が重なる。彼女の見開かれた目が印象的で、この先絶対忘れへんわ、なんてあほな事を思った。まわりは俺たちの事に気が付いて少しザワつき始める。そうしてからようやく唇を離すと、綾乃は腰を浮かせたままこちらを真っ赤な顔で見つめていた。

「ひ、ひか・・・」
「もう、二度とあないな事言うなよ」
「!」

その更に赤くなった表情も、俺にとっては絶対に忘れる事の出来ないものかもしれない。


天気彼女!


綾乃はそのあと一日中顔を赤くしていた。
――――――――――――
甘……くなったのでしょうか。
リクエストありがとうございました!

2012/6/29 repiero (No,47)


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