||遅れてやってくる愛
好きな人と恋人でいられる事は、すごく嬉しい。でもそれが、時々辛くなる事がある。
「まだかな・・・」
はぁ、と溜息をついて携帯を開く。約束した時間から20分は経った。彼は未だに来ない。時間に遅れるなんて絶対にない人なのに。
「・・・嫌われた、とか」
真っ先にその考えに至ってしまう辺り、私は相当の心配性だ。だって彼の事が好きだから。一瞬でも手を繋げば嬉しいし、時間に遅れられれば悲しくなる。でも最近は部活が忙しいからと全然遊べない。
正直、そんなの言い訳だと思う。部活で遊べないのは仕方ない、それは私も諦める。だけど、彼はそれを理由に私から逃げているんじゃないか。やっぱり彼は私の事が嫌いになったんだ。それに、きっとこうやって悩んでいるのは私だけだ。
「・・・帰ろうかな」
せっかくの夏祭りの日に、一人寂しく待ち続けるのも辛い。かと言って一人でまわるのも嫌だから、帰ってしまおうというわけだ。とか考えても、帰れないのが私なんだけど。
もう一度携帯を確認してから、両手を自身の体を抱きしめるように動かす。夏だと言うのに、酷くあたりが寒々しく感じられる。きっと彼のせいだ。
「まだかなー」
待ち続けてもう40分は経った。待ち合わせ場所についたのは約束の時間の10分前だったから。もしかして待ち合わせ場所を間違えたんじゃないかと言う考えにはすでに何回も至ったが、確かにここであっているはずだ。それはたぶんない。
携帯を開く。もはや暇つぶしはこの動作を繰り返す事だけ。メールボックスを開いても、メールが来ているはずもない。着信もない。
「せっかく浴衣なのにな」
言って、自分の体へと視線を落とす。
黒を下地に、赤や桃の色で花が描かれた着物。帯の色に合わせて黄色を選んだ髪飾り。化粧はきっと彼があまり好まないと思って、しなかった。
それに、私自身も化粧はあまり好きじゃない。なんというか、化粧をした時のあの感覚が慣れないのだ。美人なわけじゃないんだから、本当はしないとまずいんだけど。でもまぁそれは高校に入ってからで良いや。
「弦ちゃーん、帰っちゃうよー?」
はは、と乾いた笑みを零しながら彼の名前を呼んでみるけど、当然返事はなくて。ほんとに来ないのかも、とか思ってたら悲しくなってきた。泣いて良いかな。
・・・とか考えてたら、それが笑い事じゃなくなってくる。不安が募りすぎて、もう来ないんじゃないかとか考えて、視界が潤みだす。泣いたら弦ちゃんが来るわけじゃないのに。
「・・・もう、帰ろ」
時間は約束の時間の40分過ぎ。ちなみに来てから50分は経過。あいにく1時間も待てる程私のメンタルは強くない。ここまで泣かずに待てたのが奇跡なぐらい。
「・・・美衣菜!!」
「えっ・・・」
立ち上がったところでどこかから声が聞こえて、そちらの方を見る。あれ程待ち望んだ、彼の声だった。少し離れたところに息を切らした彼の姿が見える。あ、浴衣だ。
「・・・弦ちゃーん、遅いよぉ・・・」
「すまん!!途中で変な輩に捕まって、それを撒くのに時間が掛かってしまった。待たせて、すまなかった」
そう言って弦ちゃんが勢い良く頭を下げる。私は慌てて彼の頭を上げさせ、それから思い切り抱きついた。
「・・・むっ。・・・そ、その、美衣菜?」
「・・・・・・ばぁーか」
私に抱きつかれて狼狽している弦ちゃんに対し、震える声でそう言ってやる。すると弦ちゃんは私の声の震えに気付いたのか、ふ、と焦りを消し、私の背にぎこちなく手を回してきた。その優しさが嬉しい。
「私の事、嫌いになったのかと思ったよ・・・」
「そんなわけがないだろう。俺は、つまりその・・・お前を・・・だな」
「クス・・・、なぁに?弦ちゃん」
「お、俺は・・・つまり、お前の事が、好きなのだ。・・・いや、だからその・・・」
「・・・ありがと!」
「・・・・・・む」
笑って、一層強く彼を抱きしめる。そしてそれに答えるように私を力強く抱きしめてくれる彼が、嬉しくて。私はそんな彼の耳元で、大好き、と小さく囁くのだった。
遅れて
やってくる
愛――――――――――――
切甘のはずでしたが切なくなりませんでした。
2012/2/5 repiero (No,6)
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