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【幸村side】
突然倒れた彼女を抱え上げると、見た目よりも少し軽い重量感が両腕を圧した。伝わってくる温かさに、ようやくこれが夢などではないということを実感できた気がした。ソファによこたう希さんの寝顔は、安らか過ぎるほどだ。
「・・・・・・」
俺は彼女をのぞきこむように見つめた。自然、悲しげに顔が歪む。彼女の呼吸は安定しているし、顔色も悪いわけではない。どうして倒れたのかはわからないが、とりあえず今の所は、大事になっているわけではなさそうだ。だからこそ冷静に、落ち着いて彼女のことを見つめられるわけなのだけれど、でも逆にそれが俺の心を絞める。
カチ、カチ、カチ。時計の音ばかりはぶれることなく、正確に進んでいく。時間は思うよりも、あっという間に過ぎ去っていった。
「・・・希さん」
ぽつりと、呟いた。
「俺だけ、だったのかな」
まるでその声に反応したかのように、数秒後、希さんが静かに瞼を持ち上げた。
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