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俺の言葉に、希さんが僅かに驚いたような顔をする。2ヶ月ぶりの再会にはちっとも感動しないくせに、俺の誘いにはご立派に驚くらしい。そんな様子だからてっきり断られてしまうかと思ったら、意外にも乗り気に、彼女は良いですよと言ってうなずいた。今度は俺が目を見開く番だった。

「それで。何かご用でもあるのですか」

彼女は友人との分の会計と、そして別れを済ませると、戻ってきて俺の隣の席に腰掛けた。こちらを見る目は落ち着いていて、冷えた空気すらも感じさせる。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

明確な用事があって声をかけたかと言われれば、答えはノーだ。ただ好きな人がいたから、特に用もないけれど声をかけてみた。俺の行動の動悸はたったそれだけのことにすぎない。中学高校と、散々神の子だのなんだの言われた自分にしてはなんとも単純で幼い感情である。だから用など問われても、俺がわざわざ彼女を呼び止めたに値する言い訳など持ち合わせていないのだ。

「用なんてないけど。昔の友・・・隣人に、久しぶりに声をかけちゃいけなかったかい」
「・・・いえ、別に」

けっきょくは、逃げるようにそんな答えを彼女に返した。妙な間があき、再び雰囲気がおどろおどろしく、気まずいものになる。
昔の友人、と、そう言いかけたのをわざわざ言い直したのは、俺が未だに彼女への恋心と、別れ際に負った傷を引きずっているからだ。

「・・・精市さん」
「なに?」
「ひとつ、ご質問しても?」

質問?基本、受動的な態度しかとらない彼女が質問とは。沈黙に耐えかねての行動だろうか。それともここ2ヶ月で、彼女も実は少しなりとも変わっていたのか。そう考えている内に希さんが口を開き、質問の中身を話しはじめた。

「――以前に、いただいたビールのことなんですけど」
「は・・・、あぁ。あれがどうかしたのかい」
「あれ、どこで売ってますか」
「・・・・・・は?」

思わず、彼女の方を見る。視線をふせったまま、目の前におかれたお冷やの氷をカラカラと眺めていた。

「美味しかったから、また飲みたいんですけど。どこにも売ってないんです。缶はうっかり捨ててしまったので、正確な銘柄も思い出せませんし」

思いのほか真剣に、しかしぼうっと虚空を見つめるかのように彼女が話す。淡々と、呆然と。一歩一歩進んでいくように。

「・・・あれは、実家近くのスーパーで買ったものだよ。この辺りでも売っていたと思うけど」
「そうなんですか。なら、もう一度探してみます」
「うん」

そしてまた、場は沈黙に包まれる。でも先程とは違って、今は少し嬉しかった。てっきり忘れられていると思っていたのに、というか、自分自身ですら忘れていたものを、相手は覚えていてくれた。直接ではなくとも、彼女が自分に関心をもってくれていたのだ。それが嬉しくて、思わず、小さく微笑みをこぼした。

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