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【幸村side】
部屋にはサアァ、という雨の音だけが流れていた。
前の部屋とも、その前の部屋とも違う間取りをした彼女の新居は、それでも尚、今まで通りの質素で小奇麗な雰囲気を変えずにいた。俺はそこに彼女と向かい合って佇んで、気まずい雰囲気にただ黙り込んでいる。言いたいことはたくさんある筈なのに、うまく言葉にならないのだ。こうして押し掛けてしまった以上、いつまでも黙っているわけにもいかないのだが。
希さんも珍しく少し気まずそうで、伏せた視線は上がる気配がない。表情は相変わらず中途半端だったけれど、彼女がここまで狼狽えているのは初めて見た気がする。困らせてしまっただろうか、と今更ながらの不安が頭をよぎった。しかしそんなこと、本当に今更も今更な話である。
「希さん、は」
「はい」
隠し切れない緊張を感じながら、恐る恐る口を開いた。慎重に、言葉をひとつひとつ選ぶように。頭の中を色々な考えが巡って、しかし結局はすべてが自己満足な回答なことに吐き気がした。
「希さんはさ。・・・・・・俺のこと、嫌いかな」
「いえ、そんなことは・・・・・・」
「取り繕わなくて良い。素直な答えが聞きたいんだよ、俺は」
「・・・・・・素直に答えたとしても、嫌いではありません」
「じゃあ、どうして何も知らせてくれないんだい?」
「・・・私が、それを求められていないと思ったから、必要ないと思ったからです」
希さんは少しだけ迷うようにしてそう答えて、あとは黙ってまた視線を伏せてしまった。たぶん、嘘を言っているわけではないのだろう。けれど一概に本当の言葉というわけでもなさそうだ。嘘と本当が混じって、彼女の言いたい言葉を器用に隠してしまっているように見える。
俺はああ、と眉尻を下げる。彼女が作った透明な壁に、落胆する。どれだけ想って手をのばしても、結局は独り善がりなのだ。
「迷惑かもしれないけど」
ざあざあ、雨の音が響く。それにかき消されそうな声で、はい、と返事があった。彼女の顔があがった。いつもの平たい生気を込めて、寂しげな瞳がこちらを見つめていた。
「俺は、希さんが好きだ」
「・・・・・・・・・・・・」
沈黙。雨の音。僅かに見開かれた瞳。
そうですか、という彼女の答えを包み込むように、一層強く、雨の音が鳴り響いていた。
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