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それから1週間後、俺は再び彼女の家を訪ねた。ついたのは夜の9時過ぎだったから、彼女が自宅にいるかどうかはわからなかったが、すぐに出てきてくれた。
「・・・精市さん」
「こんばんは」
微笑む俺に、他人行儀のように挨拶だけはしっかりと返って来る。歓迎された様子ではないが追い返されもせず、ただ「どうぞ」とだけ言って招き入れられた。出されたお茶は、よく冷えていて美味しかった。
「何かご用ですか」
「いや、別に」
もはやテンプレートか何かに沿うように答えると、希さんは眉を寄せ、珍しく表情豊かに呆れたようにため息をついた。真顔が多い彼女にしては本当に珍しい。しかし明らかに「迷惑」と言われているようで心に刺さった。それぐらいでへこたれはしないけれど。
「以前もそう言って、よく訪ねてこられましたよね」
「そんなこともあったかな」
「・・・一体どういうおつもりなんですか」
「さぁね」
てっきり忘れていると思った事柄を、彼女は思った以上によく覚えてくれている。俺はそれが嬉しくて、つい彼女に甘えてしまうのだ。今日会いに来たのも、言葉にした通り、何か用事があったわけではない。ただ彼女に会いに来ただけ。彼女の記憶に、少しでも俺を植えつけたかっただけだ。
醜いエゴだとは思う。でもそうでもしなければ、俺は彼女の友人に、ましてや特別な人になんて絶対になれないのだ。今でさえ、彼女は俺のことを知人くらいにしか思っていないだろう。
「・・・・・・」
そんなことを考えながら、無言でお茶をすすった。希さんはそんな俺をじっと見つめて、俺も彼女自身も気付かない内に切なげな顔をして、それから目を逸らした。
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