||コーヒー


苦いものは嫌いだ。舌にまとわりつく鬱陶しさには堪えがたいものがあり、口に入れた瞬間、なかなか離れないそれに絶望を覚える。だから基本的に、苦い何かを飲食するときは砂糖や別の甘いなにかを用意するようにしている。そしてそれは砂糖を入れたら味が崩れてしまうような高級コーヒーでも同じことで、今わたしはとうとう5つ目の角砂糖を投入したところである。

「……お前よくそんなもんが飲めるな」
「うるさい。景吾は黙っててよ」

砂糖をとかし、匂いをかいでからコーヒーをようやく口にいれると、半端な苦さが広がった。たまらずもう2個ほど角砂糖を投入すると、景吾が顔をしかめた。そんなものは気にせずにもはやコーヒーとは呼べない代物を口に入れると、優しい甘さが広がる。角砂糖7個で、コーヒーはようやく甘くなったわけである。

「お前、舌おかしいんじゃねぇか」
「景吾こそ。味蕾が仕事してないんじゃないの?」
「それはお前の方だろう、アーン?」
「うるさいなぁ。たぶんお互い様だよ、たぶん」

やいやいと言い合いをして、もう一度コーヒーを口に運ぶ。ほんのりと甘い。甘すぎず、苦くなく。我ながら絶妙のバランスだ。というか、そんなに文句を言うのならば最初からコーヒーなど出さなければ良いのだ。私が苦いもの嫌いなのは彼がとうに知っていた事実であり、どうしても角砂糖7個入りのコーヒーを飲むのが許せないのならば、そもそも激苦コーヒーを出さなければ良い。もしくは、それと一緒に砂糖をもってこなければ良いのだ。
そういうと景吾は顔を顰め、

「コーヒーと一緒に砂糖を出すのはマナーだ」

と当然のように言い放った。ほう、そんなマナーが存在したのか。いや、たぶんマナーというより客人に対する気遣い、なのだろうが。私のように苦いものが苦手な客人の為の。

「……甘くないのか?」
「甘いよ? 飲む?」

取っ手を彼の方に向けておくと、景吾がそれを優雅に持ち上げ、顰め面に近づける。においをかいで渋面、そして一口飲んで更に眉根をよせた。あーあ、そんな顔したら皺が癖になっちゃうよ?

「なんだこれは」
「コーヒー」
「こんなもんコーヒーじゃねぇ、ただの甘い液体だ」
「じゃあそれで良いよ。でも元はコーヒー」

ふふん、とドヤ顔を浮かべると、景吾は渋面のまま鼻を鳴らした。自分の苦いままなコーヒーをあおる様は、その所作、表情まで、全てが美麗である。

「未海」
「ん?」

ぼうっと彼の方を見ていた私は、突然の呼び声にはっと顔をあげた。するとすぐ間近に景吾の顔があり、何を言うまもなく口付けられた。後頭部に手を添えられ、ちゅ、と唇を鳴らされる。さり気無く口内に割りいってくる舌がコーヒーのせいで苦々しくて、私はキスをしながら思わず眉根をよせた。思わず彼の肩を押し返した。景吾はこちらを見て、にや、と口元を持ち上げる。

「ちょっと景吾……「苦かっただろ?」え?」
「コーヒー。……ちゃんと味わえたか?アーン?」
「……は!?」


ーヒー


そのあと、むかついたので仕返しに景吾のコーヒーに角砂糖を10個投入してやったら、ものすごく気持ち悪そうでした。
――――――――――――
自己満足で書いた作品が増える増える……。

3月1日に書いたものです。

2013/7/21 repiero (No,137)

[8/11]
[prev/next]

[一覧に戻る]
[しおりを挟む]

[comment]
[back]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -