||夕暮れ


夕暮れ時というのは、不思議なものである。
それまで起こっていた出来事が一瞬時間を止め、目の前に広がる雄大な「赤」に目を奪われてしまうのである。西の空の赤さ、東の空の暗さ。それらをぐるぐるとまわりながら見つめていると、なんとも奇妙な感覚に誘い込まれる。その時の怒りや悲しみといったマイナスな感情が、ほんの僅かな間であれど、収まってくれるのだ。時にはそれが逆の効果をもたらすこともあるが、多くの場合、夕暮れ時というものは、万人にとっての味方であった。
そして今回も、まさに夕暮れは私の味方になってくれたのだ。

「綺麗」

ぽつり、と呟いた言葉に反応して、隣にいた男が顔をあげる。彼は私にとっての親友であり、唯一無二の存在でもあった。ただ先ほど些細なことで喧嘩をし、今は少し緊迫した緊張感に包まれていた、筈だったのだ。私はふいと横を向き、彼のぼうっとした横顔を見た。彼は私が見ているのに気がついているだろうに、それでも尚ぼうっと、夕日のほうを見つめている。その視線はやがて上へとあがり、背後へとおりていく。赤から藍色に変わるその自然の様を、感嘆の息と共に見つめている。

「綺麗だ」
「そうでしょう」

私は笑った。彼もつられたように笑う。その笑顔には先ほどまでの曇りはなく、明るかった。それはきっと私も同じだろう。

「なんか、馬鹿みたいだな。くだんねー喧嘩なんかしてさ」
「うん、ほんと、馬鹿みたい」

クスクス、と笑い合えれば後はもう簡単で、さっきはごめん、とお互いに謝りあった。謝ってみると、なんだか気分が清々しい。本当に、なんであんなにくだらないことで喧嘩をしていたんだか。

「よし、ブン太、帰ろ!」
「おう」

私が言うと、彼も夕暮れと同じ赤い髪を揺らしてうなずいた。彼の自転車の車輪がからからとまわるのを見ながら、2人で並んで歩く。そこにさっきまでの懸隔はない。これも夕暮れのおかげだろうか、とはたと思い、私は顔を上げて沈みかけの太陽の方を見た。太陽はもうほとんど消えかけ、少しその頭がのぞいている程度である。





いちにちが終わる、そんなことを思わず思い浮かべていた私の耳に、あ、一番星。というブン太の何気ない呟きが届いた。見上げれば、たしかにそこにきらきらと輝く星がひとつ、私たちを見下ろしていた。
――――――――――――
短編らしく短い文章を目指して。
2/25に書いたもののようです。すでに恥ずかしい。

2013/7/15 repiero (No,135)

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