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「相沢志穂っつー先輩いますかー!!」
「……は、え、あ?」

その日の昼休み、のんびりと教室で友達と喋っていた私の耳に、ものすごく元気な声が届いた。教室の扉の方を見ると、なにやらワカメヘアーの男の子が肩で息をしている。直前まで走っていたのだろうか。しばしポカーン、とした私だったが、友達に「あんた呼ばれてない?」と言われ、慌てたように立ち上がった。

「あの……私、相沢ですけど」
「あっ、先輩がそうなんっすか!? 俺、2年の切原赤也っす!」
「切原……、あっ、よく遅刻してくる子!」
「げっ、なんでそんなん知ってるんすか!?」

無論、ジャッカルの愚痴である。切原くんの名前はわりと頻繁に登場していて、ジャッカルを悩ませる種のひとつであるようだった。聞いていたとおり、たしかにワカメみたいな髪型だな。……かわいいけど。

「へー……、先輩、可愛いっすね!」
「……え?」
「丸井先輩がゲドウとか言ってましたけど、全然そんな風に見えないっす!」
「よしあいつ後で殺す」

あの野郎、あることないこと言いやがって。外道はそっちだろう、常識的に考えて。なんなんだあいつ。後でなぐりに行こうかな。

「やっぱり、先輩可愛いっす!」
「いやいやそんなことは……っていうか、君も可愛いよ?」
「可愛いってなんすか! 俺男っすよ!」
「そうだね、ごめん。でも、可愛いよ」
「……ッス!」

微笑みかけると、切原くんはちょっと照れたようにはにかんだ。やばい、お姉さん胸キュン。天使がおる。

「あっ、それじゃあ、俺そろそろ戻ります」
「うん?」
「先輩、また来ますね!」
「うん。え、君なんのためにここまで……」

私の言葉を聞くよりも早く、切原くんは勢い込んで頭を下げた。それからまた、天使の微笑みを見せてあっという間に走り去ってしまう。呆然と瞬きする間に彼の姿は廊下の角へ消えてしまった。
もしかしなくても、私の声、聞こえてなかったよね。一体なんの為に私に会いに来たんだ。丸井さん繋がりであることは間違いなさそうだけど、どうして私のことが彼に伝わっていたのだろう。もしや私、陰口言われてたり?

「ま、いっか」

わからないことを考えても仕方がない。
くぁ、とひとつ欠伸を零して、友達のもとへと戻った。

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