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「……でよぃ、ちょーエロかったっつぅか」
「ほぉ、そりゃ是非見てみたいぜよ」
「今度貸してやるよ」
「ありがとさん」

誰か、知らない人達の話し声が聞こえた。廊下を通っている人はそんなに多くないが、ひとりひとりの声が聞こえるほど、お喋りする連中がいないわけではない。それなのになぜか、別段大きな声で話しているわけでもない彼らの声が、大きく耳に残った。

(なんの会話だよ)

まずつっこみたいところはそれ。トイレに行こうと思ったのに、なんだか廊下を通りづらくなってしまった。彼らはこちらに向かって歩いてきていて、銀と赤の髪色がよく目立っていた。赤の方は、たぶん外道サンだろう。あ、間違えた、丸井さんだ。もうひとりの方は知らないが、面倒な奴には違いない。

(ま、いいや。トイレ行こう)

とりあえず早くしないと時間がなくなりそうだったので、私は足早に廊下を歩いていった。彼らはこちらに気がついていない。ま、私地味だし気が付くほうがすごいけど。

「あああああ!!」
「え、は、ちょ、なに?」

突然指を差され叫ばれ顰め面をされ、私は何がなんだかわからぬままそちらを見た。丸井さんがこちらを見て叫んでいる。うるさいぜよ、と銀髪さんが顰め面で注意をし、すると丸井さんは「こいつだよい!!」と全く身に覚えのないような言葉を叫んだ。私なにかしましたっけ。

「なに、なんかした?」
「ほぉ、お前さんが相沢か」
「え、なんで知ってるんですか」
「ブンちゃんに聞いた」
「ブンちゃん言うなよぃ!!」
「俺は仁王雅治じゃき。よろしくー」
「あっはい、どうもよろしくお願いします?」

とりあえず状況が飲み込めないが、握手ぐらいはしておこう。
仁王雅治、という名前にも聞き覚えがある。うん、たしかジャッカルの愚痴の中にわりと何回も登場してた気がする。その時にジャッカルがプリッとかピヨッとか言ってた気がするけど、これはなんの愚痴を聞いていた時だったか。

「おいっ、なに馴染んでんだよ、仁王!」
「プリッ」

……ん?
なんだか聞き覚えのある謎の言葉が飛び出したけれど、触れないことにしておいた。

「ってか丸井さん、私に何か用なの?」
「お前に用なんかねぇよぃ!」
「……ツンデレ?」
「ちげぇ!!」
「ある意味正解じゃなか?」
「えっ!? 丸井さんのデレは特に需要ないよ?」
「ちげぇっつってんだろ!?」

丸井さんは叫ぶと共に両手を振り上げ、私をオーバーリアクションで謗ってくる。その動きが面白かったのか、仁王さんはケラケラと笑い声をあげた。私も一緒になって笑ったら、また怒鳴られてしまった。ひどいなぁ、もう。

「あ、わたしトイレに行きたいんだけど」
「それは引き止めてすまんかったな」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあの」
「はい、失礼します」
「……おまえ俺と仁王で態度違くねぇ?」

あたりまえだろ。

真顔でそう言い放つと、丸井さんがまた顔を顰めてぎゃんぎゃんと騒ぎ出した。仁王さんがそれを引き摺ってB組の方に歩いて行く。そんな2人のある意味で仲良しな様子を見つめ、笑顔で手を振って見送ってやった。

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