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くぁ、と大あくびをかまして、私はいつものようにカウンターへと入っていった。とは言っても、お店ではない。図書室だ。私は1年生の頃から図書委員会に入っている。

「んーと……、今日のお仕事はっと」

今日はもう一人の当番の子がお休みのようで、利用者に貸し出しをするカウンター当番と、本の整理の仕事をひとりでこなさなくてはならない。いつも私は本の整理の方をふらふらとやっているのだが、今日はカウンター当番の方が中心になりそうだ。
わたし、人見知りするから嫌なんだけどなぁ。とかなんとか嘘八百を呟いて、ひとまずカウンターに「見回り中」のプレートを置いて立ち上がった。
返却されてきた本は山積みになっていて、恐らく他の委員の子がサボっているのであろうことが容易に察せる。まったく、仕事してくれないと困るんだけどなぁ。ぶつぶつと文句がこぼれた。

「おっ、これ、このまえ賞取ったやつじゃん」

抱えた本を一冊一冊手に取りながら確認していき、棚に本を戻していった。3年間も同じことをやっているせいか、どの本をどこに返せば良いのかは番号を見ただけでわかるようになった。前はすごく時間のかかる仕事だったのになぁ、と一人で呟く。

「……何がだ?」
「え?」

あらやだ、イケメン。声のした方を見ると、背の高い糸目のお兄さんが立っていた。図書室の利用者なのかそれともどこかですれ違ったのか、前にどこかで見たような気がした。それにしてもイケメン。……じゃなくて、どうやらこの人に独り言を聞かれていたらしい。恥ずかしさと驚きに口籠ると、その人は表情を変えずに口を開いた。

「お前は、図書委員だろう。有神論という本を知らないか?」
「有神論……、黒い背表紙の?」
「ああ」
「なら、こっちだよ」

一瞬戸惑ったものの心当たりを思い出してうなずいた。前に綺麗な女の人が読んでいるのを見たからよく覚えている。
たしかこの辺り、と糸目の彼を目当ての棚まで案内すると「ありがとう」という小さな笑みが返って来た。口調やその澄ました雰囲気から、多少なりと偉そうな人との印象を抱いていたが、意外と素直な人なのかもしれないとぼんやり思った。

「それ、借りるの?」
「そのつもりだ」
「じゃあ、借りる時は声かけてくれる? まだ本を片付けなくちゃいけなくて」
「手伝おうか?」
「ううん、大丈夫」

断ると、「そうか」と言ってその人は去っていった。偉そう、という印象はやはり間違っていたかもしれない。普段カウンターにいないからわからないけれど、図書室にはよく来る人なんだろうか。
足早に図書室の中を動き回り、手に持ったままの本を全て戻し終えてから、急いでカウンターに戻った。あーやだやだ、忙しいな。ひとりいないだけで大違いだ。
カウンターに戻るとさっきの人はすでに傍で待っていて、私が慌てた様子で戻ってくるのを見てまた微かに笑った。差し出された貸し出しカードは分厚く(裏表あわせて、1枚に20冊分まで書けるのに)、彼がここの常連であることを教えていた。えーと、お名前は……柳、蓮二さん?なんか聞いたことあるような名前だな。

「……?」
「何か気になるのか?」
「あ、ううん、なんでもないよ」
「……お前、名前は?」
「え? 相沢だけど」
「……ふむ、やはりこの時間に当番をしていたか。1年前のデータに変わりはないようだな」
「は?」
「いや、なんでもない」

私が誤魔化したのと同じように言ってから、柳さんはふ、と表情を和らげた。それから自分の名前を名乗ってくれる。……やっぱり、どこかで聞いたようなきがする。

「あっ!」
「どうかしたか?」

思い出した、とばかりに思わず声がこぼれてしまう。慌てて口を塞いで誤魔化してから、私は目の前の人をしげしげと眺めた。
そうだ、そういえばそうだった。いつだったかは忘れたが、彼の名前はジャッカルの愚痴の中で聞いたのだ。ということは、テニス部なのだろうか。カードを返すと、柳さんはありがとう、とだけ言って図書室を出て行った。
彼の後姿を見ながらひとり納得するようにうなずき、それから本の整理が終わっていないことに気がついて慌てたように立ち上がった。
まだ片付けなくてはならない本が山積みだ。早く終わらせなければ。

――――――――――――
「有神論」という本についてですが、このサイトにのせている別の連載ネタを引っ張ってきました。ちょっとやってみたかったんですすいません。特にその連載と設定がリンクしているわけではないのですが、せっかくの機会だったのでネタをひっぱってきてみました。

2015/3/5 修正

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