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「なぁ、ジャッカルいるk……「出たな外道!!?」……は?」
教室の扉から、突然ひょっこりと顔をのぞかせた男。それを視界に捉えるなり、思わず叫んだ言葉はそれだった。対し、当本人はぽかんと口を開いている。ジャッカルは呆れたような顔で私を見、それからその男の方に歩み寄った。彼こそが、ジャッカルをパシリに使っている外道中の外道、丸井ブン太である。
「ジャッカルをパシリにきたな!? この腐れ外道め!」
「は? いや、……って、相沢か。久しぶり」
「うん久しぶり! でもジャッカルをパシらせはしないぞ! 去れ、外道!」
「別にパシリにきたわけじゃねぇけど……、なぁジャッカル、こいつ黙らせてくんねぇ?」
「うわっ、そうやってさりげなくジャッカルをパシるな!」
「志穂、別にパシられてるわけじゃないからとりあえず黙ってくれ」
「わかった」
ジャッカルは良い奴だから言うことを聞いてやることにする。もちろん、丸井さんの言うことは聞かないよ?
そんなあからさまな態度に丸井さんが顔を顰め、わかりやすい奴だな、とそんなことを零した。それを言うなら丸井さんも負けてないと思うけどね。
「あのさぁ、今日の部活ミーティングなしになったらしいぜ。そんだけ」
「そうなのか? わかった、ありがとう」
「おう。……なんだよ、相沢」
「……思いのほか普通の用事でつまらない」
「悪かったな。じゃ、授業もうすぐだし俺行くわ」
「あ、ちょっと待った。ねぇ、丸井さんは最近なにか面白いことあった?」
「……おまえ、それさっき俺にも聞いてなかったか?」
ジャッカルの問いかけにはあたぼうよ!とちょっと意味を間違えたような返し方をして、丸井さんの方に向き直る。面白いこと、と言われて丸井さんは首を捻ったが、それから一瞬顔をしかめ、苦い笑みを浮かべながらこんなことを漏らした。
「……まぁ、彼女に振られたことかな」
「…………」
暗っ。
「なんだよ!! そこは笑ってくれねぇと反応に困るだろぃ!」
「いやそれはこっちのセリフだよ!」
「……ブン太、おまえまた……」
「なんだよジャッカルのくせにそういう事言うのかよ! そうだよ、まただよ! あああもう彼女欲しい!!」
うぎゃあああ、と奇声のような何かを上げ、丸井さんが頭をかきむしる。ちょっとその姿がかわいそうに見えたのは、たぶん私だけじゃないはず。
「じゃあ、俺もう帰るからな!」
「あ、ちょっと……行っちゃった」
後姿を見送りつつ、ぽかんとそんなことを零すと、ジャッカルがはぁ、とため息をついた。どうやら、こんなことは日常茶飯事のようである。
「……彼女欲しい、ねぇ」
「……なんだよ?」
「いや、チャラいなぁ、と思って」
遠回しに「アレじゃ当分は無理だろう」とも取れるような呟きに、ジャッカルは苦笑いをもらして私の頭を撫でた。
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