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時間は半月ほど先へ進む。

「……んなっつやすみだああっ!!」

夏休み直前、登校最終日。ホームルームが終わった瞬間に、私は解放感と共に叫んだ。集まる視線はなんのその、素早く鞄を持って教室を出ていく。後方では笑い声と、先ほどの私のような叫び声が響いていた。
今日から、中学校生活最後の夏休みがはじまる。





「あ゛ーー……」

夏休みがはじまって、1週間が経つ頃。
わたくし志穂は、見事にすることがなくなって暇を持て余しているのでした。

「ひま」

呟いたところで現状が変わらないのはとっくに理解しているのだが、なにせすることがない。喋る相手がいなければ本を読む気にもなれず、やりたいゲームもないのである。

「仕方ない、宿題でもしようかな……いやいや、まだ夏休みはじまったばっかりなのに宿題なんて」

ほんの少し傾いた思考をすぐさまかき消して、ぶつぶつとひとり言を窓の外に投げかけた。夏にふさわしい入道雲の下、ミンミンゼミが私を笑っていた。今までの15年間で、完全に"宿題は最終日にやるもの"という考えが根付いてしまっているのだから、全く駄目な人間である。どうせあとで後悔するに決まっているのに、喉元過ぎれば熱さを忘れるとはこのことか、毎年毎年学習する様子はない。

「……ん? メールだ」

軽快な着メロに反応して携帯を開くと、親友からメールが来ているようだった。1、2年の時に同じクラスで仲良しになった子で、別のクラスになってからも、休日にはよく遊んでいる。

『Subject:久しぶり

あんた、どうせ今暇してんでしょ?
公園で待ってるから、今すぐおいで。
ウィンドウショッピング行こう。』

「おおおおおお!?」

歓喜。歓喜である。さすが親友、私が寂しい夏休みを過ごしているのをよくわかってらっしゃる・・・・・・。彼女はいつもそうなんだ、私が困っている時にすぐに手を差し伸べてくれて・・・って、今はそれは良い。文面からするに、たぶん彼女はもうすでに公園で待ってくれているのだろう。親友様のお誘いだ、これは今すぐに行かねばなるまい。

「友達がいるって素晴らしい」

ひとりうなずきながら、財布と携帯だけを持って家を飛び出した。目指すは公園、親友様に会いに行くために。

「……あ」
「あ」

公園に向かう途中、向かいから見覚えのある黒卵が走ってくるのが見えた。無論、黒卵といえば彼しかいない。たった1週間ぶりのことであるのに、妙に懐かしいような気がした。

「よっ、久しぶりだな。出掛けるのか?」
「久しぶり! うん、友達と買い物。ジャッカルは……借金取りから逃げてるの?」
「ちげぇよ! ランニングに決まってるだろ」
「あはは、ごめんごめん」

笑うと、ジャッカルも笑ってくれた。相変わらず優しい、良い奴だと思う。

「あ、そうそう。大会どうだった? 昨日だったんでしょ?」
「あぁ――まあ、次には進む。手放しに喜べる結果じゃねぇけどな」
「ふぅん、そっか。……頑張ってね」
「おう。お前も宿題頑張れよ」
「ちょっ、やだな、今その現実から逃げてるところなのに」

私の嫌そうな顔に、ジャッカルが笑う。疲労の色はあるが、一応、元気ではあるみたいだった。彼の額をつたっていく汗が、この酷い暑さと、彼の努力を教えている。タオルでそれを拭うさまを、少し、本当に少しだけ、かっこいいな、と思った。

「……そっ、それじゃ、私もう行くね! 無理して倒れないように気を付けて」
「あぁ、ありがとう。じゃあな」

最後に爽やかに微笑んで去って行ったジャッカルを見送って、私はひとり、まぶしいばかりの太陽を見上げた。彼の黒い肌に反して、嫌に白い太陽だった。

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