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「「あ」」

出会いは唐突に。
そう、その時の私たちはまさにその装いで唐突に出会った。というか、出くわした。

「えーと、なんじゃったっけお前さん」
「忘れてるんですか酷いですね硫黄さん」
「ちょ、硫黄て。俺は別に元素記号(イニシャル)Sじゃないぜよ相沢」
「なんだ覚えてるじゃないですか仁王さん!」
「お前さんも覚えてるなら妙なあだ名をつけるんじゃなか」
「すいません硫黄さん」
「殴ってええか」

そういって拳を握る動作をする仁王さんを「暴力いくない」と片言で諭して、しかし特に話題もなくなり互いに互いを見つめて沈黙する。ええと、なんだ、この空気。
ふんふふーんと上機嫌に鼻歌なんて歌いながら廊下を歩いていたら見事に曲がり角でこの硫黄さん……いやいや、仁王さんに出くわした。出くわしたのだから、知らぬ仲ではないし何かしら会話が発生しても良いものだが(というか発生したのだが)、なかなか言葉にならない。見つめあいながら腹の探りあい、決してドロドロしているわけではないのに状況はまさにそれがふさわしい。てんてんてん、とそんな今の状況にテロップを流すとしたらそれが最適であろうものを仁王さんがわざわざ口で言い、私はそこまできて停止した思考回路を再び活動させた。

「きょ……、今日は良い天気ですね」
「そうじゃな」
「明日も晴れるといいですね」
「そうじゃな」

てんてんてん。また沈黙が転がる。いや待て誰かなんとかしてこの状況。

「……ぶっ」
「え」

見事に噴出した。仁王さんが。

「て……天気て」
「え、え、」

どうやら私の持ち出した話題がよくなかったらしい。天気の話とか誰でも出来るし場繋ぎには素晴らしいと思うのだが。どうやら私の認識は半世紀ほど間違っていたようだ。

「もうちょっとあるじゃろ。なんでこんなところにいるんだとかこれからどこに行くのかとか」
「そ……そんなに話のネタがあるなら仁王さんから言ってくださいよ!?」
「あーすまんすまん。ちなみにな、俺がここにいるのは……「何をやっているんですか仁王君」お、やーぎゅ」

聞き覚えのあるこえに仁王さんが振り返り、ひょいと彼の後ろを見ればいつぞやの紳士さんが立っていた。柳生さんだ。

「おや、相沢さんではありませんか。仁王君とお知り合いだったので?」
「あ、はい。少しお話した程度ですけど」
「そうでしたか。……ご迷惑をおかけしませんでしたか?」
「迷惑ってどういうことじゃ柳生、俺は別になんも「ばっちりかけられました!!」おい」
「まったく……そうではないかと思っていたのです。ほら仁王君、きちんと謝ってください」
「なんじゃその流れ!? タッグ組んで俺をいじめるんじゃなか!」
「ふふ」
「ふふ」
「うざいぜよ!」

とりあえずその場のノリに従って仁王さんをからかってみたが、案外柳生さんもおちゃめなものである。

「というか仁王君、あまりゆっくりしている時間はありませんよ。早く行かないと……「真田の鉄拳だけはくらいとぉない!! 行くぜよ柳生!」まったく、お騒がせしてすみません」
「あ、いえ」

のんびりとしていた二人が一転、慌しげに走り去って行く。私はその背を見つめながら、どうか彼らが風紀委員長に見つかって怒られることのありませんようにといつぞやの記憶を思い返した。

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