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さて、私は今日は部室ではなく図書室に向かわなくてはならない。なぜって、当番があるからだ。ちなみにジャッカルはどうやら部活が休みらしく、自主練をするつもりなんだそうだ。
途中で教務室に寄って鍵を回収して、図書室に向かう。鍵を開けて図書室の整備をはじめると、すぐにもうひとりの当番の子が走って入ってきた。遅れてごめん、と別に遅刻でもないのに申し訳なさそうに謝ってくるこの子は本当に良い子だ。

「じゃ、カウンターよろしくねー」
「はーい」

返却されてきた本をかかえて、本棚の間に入っていく。しかし今日は思いのほか数が少なくて、すぐに整理の仕事を終えてしまった。カウンターに戻ろうかと思ったが、別に手伝えることなどないし。とりあえず本のチェックでもしてみようか。

「あ」

ふらふらと本棚の間を歩いて行く途中、はたと足が止まった。なぜなら、目の前に以前の糸目さんが現れたからである。そのひとは白いうなじを露見させ、少し厚めの難しそうな本を立ったまま読んでいた。たぶん流し読みだ、ページめくりが異常に早い。借りたい本を選んでいるのだろうか?

(美人だ)

たしか、柳蓮二さんと言ったか。慣れた手つきで本をめくる仕草は、男性ながら綺麗、という言葉がよく似合う。別に関わる用事もないので、本の並びを見つつ脇を素通り。すごい良い匂いしたんですけどなんだこれ。女子か!

「相沢」
「うぇっ」

考えごとをしているところに突然声をかけられ、変な声が出た。振り返ると柳さんが立っている。ふ、と例の微かな笑みを浮かべて私のことを見つめていた。ええと、何の用でしょう。

「借りる本を決めかねていてな。何かお薦めはないだろうか?」
「え? あー……、そういうことなら、これとか?」

近くにあった本棚から一冊を抜き取り、彼に見せる。お勧めを聞いてくるとは驚いた。ただ私自身、読書は好きだしむしろ趣味のひとつなので、嫌な気はしなかった。どうして私に聞いたのかと考えると聊か疑問はのこるが、恐らく図書委員だからとか、そんな程度だろう。
勧めた本のタイトルは「生と死」。絶対的に避けられない死に対して、またこれも避けることはできない生きるということに対して、著者が様々な角度から説いていく哲学の本である……とまぁ、解説文の受け売りなんですけどね。ずっと前に読んだけれど、わりと面白かった。

「ふむ……、こういう本を読むのか」
「え、まあ、気が向けば。でもあんまり読みたくないかな」
「……俺には薦めるのにか?」
「柳さんなら読める気がして。あ、ちゃんと面白かったよ?」

適当に薦めたわけではない、と少し必死になって伝えると、少し笑われた。何がおもしろかったんだろう。会話はこれで二回目だと思うけど、まだ彼のことはよくわかっていない。偉そうな人ではないにしろ、多少強気な面はあるように見える。

「それじゃあ、これは? 『神頼みの行き先』。前、神様の本を探してたよね」
「ああ、前に読んだことがある。面白かった」
「じゃあ……」

本棚の間を行き来しながら、いくつか本を指し、紹介してみる。童話から伝記、ラノベまで様々なジャンルに飛びながらお薦めしてみたものの、ほとんどが読んだことがあるか、同作者の本を知っているかのどちらかだった。

「これはどう?」
「『MAMA』? ふむ……読んでみよう」

ようやく彼の知らない本にたどり着き、私はほっと胸をなでおろした。読書量には自信があったけれど、柳さんには敵わないかもしれない。できるだけ多ジャンルから推薦したのに、どうしてこんなにも読んだ本が被るんだろう。単純に趣味が一緒なのか、やはり彼の読書量がすさまじいのか。本好きなんだね、と何気なく呟くと、お前もそうだろうと返された。

「……読書量には自信があったが、相沢も相当読んでいるな」
「それは私の台詞だよ」
「図書館にはよく行くのか?」
「週末に、時々。柳さんは?」
「放課後に時々、だ。だが週末もよく行く」

ここで柳さんは少し間を置き、私の顔をじっと見つめた。突然の沈黙に何か言おうかと唇を開きかけたが、それよりも早く柳さんが言葉を発した。今までよりもはっきりとした笑みがその顔に浮かんでいる。

「相沢、また今度お薦めを聞きたい。良いか?」
「え、ええっ、良いけど……私のオススメでいいの?」
「よくなかったら言わないだろう」

それもそうだ。納得して、改めて「良いよ」と笑った。薦めるだけだし、何より彼とは話が合いそうな気がするし。いずれは私もオススメの本を教えてもらえるかもしれない。
そのまま流れでアドレスを交換して、柳さんは礼を言って立ち去って行った。残された私は本棚の間を歩きながら、新しい友達ができた喜びを隠せずにいた。

――――――――――――
今話に出てきた本の名前ですが、「MAMA」を除き、全て管理人が適当に書いたものです。もしかしたら実在するタイトルもあるかもわかりませんが、その実在の蔵書とは全く関係ありませんのであしからず。
ちなみに「MAMA」は紅玉いづきさんという方の書かれた私の大好きな本です。興味のある方は調べてみてください、泣けますよ。

2015/3/6 修正

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