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「おい、相沢いるk「出たな外道!!」……ッてめぇ!!」

放課後になると、珍しく丸井さんがうちの教室を訪ねてきた。しかもジャッカルにではなく、私に用事があるらしい。なんか嫌がられてるっぽかったからちょっとびっくり。まぁ来て早々に外道発言してやったから、もしかしたらまた怒るかもしれないけど。

「まぁ、良いや。今日はそういうことをしにきたわけじゃねぇんだよい」
「あらそうなの?珍しいね、私に用事なんて」

これは本当に珍しい。彼が私に用事があってたずねてきたことなんて……、うん、今までなかったかもしれない。いつもジャッカルの方に用事があって、それをからかって騒いで遊んでるだけだもの、私。

「ジャッカルに聞いたんだけど」
「うん、なに? ジャッカル変なこと吹き込んでたらコロス」
「いや吹き込んでねぇよ」
「あのさ、お前お菓子作るの得意なんだって?」
「……あ?」

丸井さんが一瞬「えっ?」って顔した。ジャッカルは「しまった」という顔。

「……それがなに?」
「俺、お菓子好きなんだよい」
「へぇ」
「だから俺に作っt「帰れ」」

断る代わりのそっけない文言を言い放ち、私たちの間を挟んでいた扉を勢いよく閉める。誰が、何を、どうしろだって? 寝言は寝て言え。家に帰って寝ろ。

「なんでだよぃ、別にいーじゃねーか。ついでで良いから」

閉められた扉をがらりと開き、丸井さんはしつこく私に文句を垂れてくる。

「他の女の子に作ってもらえば良いじゃない嫌だ私は絶対に!」
「ジャッカルには作ったんだろぃ? めっちゃ美味かったってゆーから」
「それはジャッカルだからだ貴様には作らん帰れ!!」

また扉を閉めた。そしてまた開かれた。なんなんだこいつ。

「この前外道って言ったの許してやるから」
「別に許しなんて求めてないし」
「じゃあ、俺のガムやるから」
「いらない」
「……なにがなんでもダメなのかよぃ?」
「うん。だめ、絶対」
「ちっ……、しゃーねぇな、じゃあ良いよぃ」

ものすごい美味さっていうから期待したんだけどなー、と丸井さんは言って、教室を去っていった。ふん、誰が作るか。

「……お前も相変わらずだな」
「なにが? もう、ジャッカルが変なこと吹き込むから!」
「うっ、いや、すまん」
「……まぁ、ジャッカルだから許すけど」

仏頂面で答えると、ジャッカルが苦笑した。

私がここまで嫌がるのには、理由がある。
私には3歳下の弟がいて、普段はそれはそれは可愛い、私の自慢の弟である。しかしこの弟。私が小学4年のころ、つまり弟は小学1年のころに、あることをやらかした。それ以来、私はお菓子を他の人に作って渡すことをやめたのである。それまでは弟とかに手伝ってもらったり、時には友達と一緒に作ったりすることが多々あった。でもその事件をきっかけにして、私はお菓子を作る時は絶対に「一人分」、そして作る最中は絶対に台所には「誰もいれない」というのを鉄則にしている。あ、ジャッカルは別ね。かわいそうなくらい良い奴だから。

「今思うとくだらないんだけどね。でもまぁ、ショックだったの」
「まぁ俺も同じようなことがあったら落ち込むな」
「でしょ? あ、そうだ今度ジャッカルにブラウニー作ったげるよ」
「お、ありがとな」
「いやいや」

ジャッカルは日頃大変だからね。びっくりするほどに。お菓子作るだけで彼が喜んでくれるなら私はそうしますとも、アーメン。

「あ、そろそろ部活の時間だよ」
「そうだな。じゃ、また明日」
「また明日ー!」

にこ、と笑って手を振って、私たちはそれぞれ教室を出て行った。

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