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「重ぉぉい!!」

ダンッ、とよく響く音がコンピュータールームに響き、私は痛む腰をさすると共にうんざりと顔を顰めた。いま何往復目?と持ってきた束の数を数えてみると、……わあ、ちょうど10往復目ですね。
どういう成り行きだったか、超善人なわたくし志穂さんは、ただいまその上を行く善人という域を超えたもはや「神」なジャッカルくんのお手伝いをしている。ちなみに彼は今ここにはいない。何故って、ジャッカルは別なところでもっと重いものを運ばされてるらしいからだ。終始申し訳無さそうな顔で私にここを任せていったからには、私も途中で投げ出すわけにはいかない。
ちなみに私の頼まれたお仕事は、購入したばかりの大量のコピー用紙や授業用プリントなどを、コンピュータールームに搬入することだった。なーんだそれだけか☆と思った私が馬鹿だった、というのはさきほどの往復回数を聞けばよくわかる事実である。

「あー……」

もう愚痴も呟けなくなった怠い身体を引きずり、私はとぼとぼと10回目の往復路を戻っていく。何度も往復したといっても、さすがにあともう少しの筈だ。
教務室にたどり着くと、並べてあった紙束は本当にもう少ししかなかった。ざっと4束、つまりあと4回の往復ですべてが終わる。……終わるぞ!

「相沢」
「……はい先生?」
「運んでもらって悪いな。それで、もっと悪いんだけど」
「……えぇぇぇぇ?」
「追加だ。頼む!」

いやいやいや、鬼か。ただでさえ辛いのに、それがようやく終わる喜びを噛みしめていたところなのに、なぜ追加するのか。なにゆえ? Why?

「……どうかされましたか?」

突然後ろから聞こえた声に振り返ると、見覚えのある人がそこに立っていた。えっと……、そう、たしか風紀委員の人だ。名前は、柳生ぴろし? いやいや、そんな間抜けな名前じゃない。えー……、そう、比呂士さんだ。ジャッカルの愚痴にもたびたび登場する。

「ちょっと先生から頼まれごとしてまして」
「それはちなみに、どういうものなのですか?」
「あー……、ここにある紙束を、コンピュータールームまで運ぶんです」
「……全部ですか?」
「……全部です」

そう言うと、柳生さんははぁ、とため息を吐いた。うん、その気持ち分かるよ。考えるだけでため息でるよね。

「女性に重いものを運ばせるわけにはいきません。私も手伝いましょう」
「えっ……えっえっ、えっ?」
「私がお引き受けいたしますから、貴女は運ばなくても大丈夫ですよ」
「え……あっ、いや、そういうわけにはいかないです!」

あまりにナチュラルに柳生さんが紳士だったもので、しかもいきなり二束くらい軽々と持ち上げたものだから、驚いてアホな反応を見せてしまった。というか、柳生さんに任せたりしたら申し訳ないしジャッカルにも顔向けできない。まぁ彼の場合、あれ意外と重いよな、とかで笑って流してくれそうだけれど。

「……失礼ですが、お名前をお聞きしても?」
「あ、えと、相沢志穂ですけど」
「そうですか、私は柳生比呂士と言います」

柳生さんはにこりと微笑んだ。ううむ、なるほど、良い人っぽい。ジャッカルの愚痴の中では、いつも仁王さんの世話をやいている人だ。確かアデューとかなんとか……まぁ、その辺の話は良いや。

「すみません、手伝ってもらってしまって」
「いえ、当然のことです」
「……ありがとうございます」

私が小さくお礼を言うと、彼は優しく微笑み、いいえ、と返してくれた。ジャッカルに負けず劣らず、相当な良い人な気がする。ありがとう柳生さん。

「早く終わらせてしまいましょう」
「はい」

笑顔を向けると、柳生さんは少し驚いたような顔をした後、微笑んだ。

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