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「ジャーッカルー」

ふらふらと彼のもとへ寄っていくと、振り返った彼は私を見て苦笑した。どうしたんだ?と首をかしげ、私に微笑みかけた。彼の微笑みは不思議だ。見ていて安心する。

「いや、用という用はないんだけどね?」
「ないのかよ」
「うん」

ぺろりと舌を出し、それでね、と話題を切り出す。用事というほどではないが、彼に話したいことはひとつあった。

「最近ね」
「おう」
「テニス部のひとによく会うんだ」
「……そうなのか?」

受け答えする彼は驚くでもなく興味を示すでもなく、むしろしかめ面で嫌そうな顔をした。私は一瞬首をかしげ、しかしすぐに話の続きをはじめた。

「なんか、みんな面白いね」
「……そうか?」
「うん。……あ、funnyじゃなくて、interestingの方ね?」
「お、おぉ」

ジャッカルは引きぎみに驚いたような顔をし、私の言葉にうなずいた。うん?、私なんか変なこと言ったかな?

「柳さんに、仁王さん。切原くんでしょー? あとこの前、廊下走ってたら真田さんに見つかって怒られた」
「うわ、よく生きてたな。遅刻でもしそうだったのか?」
「ええっなんでわかるの?」
「伊達に三年も一緒にいねぇよ」

苦笑気味にはにかむ。彼のその表情に妙に納得してしまって、ぼんやりと視線を宙に投げた。
ジャッカルに会ってから、もう三年も経つんだねえ。
特別何か思ったわけでもなく、自然とそんな言葉が零れる。ついとジャッカルの方に視線をやると、子供を見る母親のような優しい瞳とぶつかった。急に恥ずかしくなって、慌てて目をそらした。

「志穂は……」
「なに?」

意味ありげな言い方に首を傾げる。ジャッカルはそんな私を見て眉を下げ、なんでもねえよ、と笑った。
三年も一緒にいたから、それが決して「なんでもない」表情ではないことはすぐにわかった。けれど追及するのは憚られて、「なんでもない」ことにして私も黙った。
少し、気まずかった。
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2016/1/26 修正

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