||迎春の誓い


「・・・ックシュ」

と、少し時期外れに可愛らしいくしゃみをしたのは、俺の大切な恋人だった。卒業が近付く季節、と言っても中2の俺にはまだ縁遠い話だが、でも部活の先輩がいなくなってしまうことを思うと卒業というのは寂しいものだった。間もなく春だというのに風邪をひいてしまったらしい恋人を心配そうにのぞきこむと、恋人は笑って、大丈夫だよ、と言った。

「・・・なあ、これからヒマ?」
「え?うん、まあ、暇かな・・・、って、赤也!?」

彼女の答えを聞くなり、よし、行くぞ!とばかりに手を掴んで走り出す。驚いたような声が俺の名前を呼ぶ。その後で、どこ行くの、なんて聞かれたが、自分自身もよくわかっていなかったのでそれには何も答えなかった。行き先なんてあとで考えれば十分だ、と自分の中で若干の言い訳を零して、己を納得させる。
そんなことよりも、と俺は話題をはぐらかした。

「なぁ、もうすぐ先輩たち卒業だよな!」
「そうだけど、どうしたの?」
「先輩たちが卒業したらさ!」
「うん!」
「俺らが、今度は『先輩』になるんだよな」
「・・・うん!」

何を言いたいのかわからない、とばかりに首を傾げた恋人に、にかっ、と笑顔を向ける。目線を正面に向けると、ちょうど赤信号だった。立ち止まって恋人の方を見て、俺は話の続きをはじめる。

「そうなったらさぁ、俺、ちゃんとかっこいい先輩になれんのかな」
「え?」
「部長みたいに立派に部員たちまとめて、頼られる存在になれんのかな」
「・・・・・・赤也?」

何かを言おうとしていた彼女の口が閉じる。俺の言葉に思うところがあったようだ。しばらく彼女は俺の横顔を見つめていたが、急に笑顔を作って、口を開いた。ず、と誰かが鼻をすする音がした。

「私は、赤也なら、大丈夫だと思うな? 先輩たちみたいに、立派な『先輩』になれるよ、きっと!」
「・・・おうっ!」

彼女の笑顔につられるようにして自分も笑顔になる。あ、青だ。と彼女が呟いたのにつられてそちらを見ると、たしかに信号が変わっていた。それを見るなり、再び彼女の手を掴んで走り出す。けれど後ろから、ちょっと、もうちょっとゆっくり!とかなんとか叫んでるのが聞こえたから、しかたなくスピードを落とした。彼女はもう息を切らしている。体力がないことが唯一の自慢、とか前にふざけて言っていたのを思い出し、クス、と小さく笑みが漏れた。

「・・・ックシュ」
「大丈夫か?・・・ックション!!」
「もう、赤也も人のこと言ってられないじゃん!」
「あれ?おっかしいな・・・、ックション!」
「あはは、そんなんじゃ立派な『先輩』にはなれないかもね?」
「はぁ!?そ、そんなことねーよ!」

と、言ってるそばからまたくしゃみが出て、思いっきり笑われてしまった。なんだか悔しくて必死に顔を顰めてくしゃみを我慢すると、今度はその顔が面白かったのか、こちらの顔を見て笑った。なんか俺、笑われてばっかだな。

「うし!来年の春、ぜってー後輩たちに憧れられるような『先輩』になってやる!」
「ほんと?・・・期待してるよ」
「おう!その為に・・・、そうだな、始業式で跡部先輩みてーなことやってやろうか!?」
「ええー!?やめといた方が良いって、あれゼッタイ将来黒歴史になるよ!」
「『アーン?・・・俺様だ』」
「ちょ、似てなっ!似てないけど笑える!」

楽しそうに笑う彼女に自分もつられたように笑って、それから再び走るスピードを上げた。もっとゆっくり走ってってば!とまた彼女の悲鳴が聞こえたが、無視してそのまま突っ走った。なんだか未来のことを考えているうち、ワクワクしてきて走りをとめずにはいられなくなったのだ。


春の


来年は自分たちが、という期待と喜びとちょっとの不安と、そんなものを滲ませて、俺はまた、笑顔を浮かべた。
――――――――――――
第5位は切原赤也でした!
「離愛クライシス」が人気のようです。ありがとうございます!

2013/1/27 repiero (No,93)

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