||別れ文句より愛言葉


「あ・・・、柳先輩」

その日は酷く寒い日だった。生徒会の集まりがある、とかで柳先輩から連絡があって、私は朝早くに生徒会室に向かった。明日は卒業式だというのに、なんだろうか。先輩は任期をとうに終えたから、今更仕事なんてあるはずがないのに。そんなことを考えながら、けれど久しぶりに先輩に会えることを心待ちにしていた。

「おはよう」
「おはようございます」

先輩はいつも通りに微笑んで、私の頭を撫でた。やめてください、と笑いながらその手をどけると、先輩は少しだけ寂しそうな顔をした(ように見えた)。

「あの、他の人は?」
「来ない」
「え?」
「・・・すまない。本当は、個人的にお前に用があったんだ」
「個人的に?」

わざわざ理由をつけてまで呼び出したということは、大切な用事だろうか。・・・それともあの人のことで、と考えが過ぎり、無意識に眉を寄せた。

「恐らく高崎も察しがついていると思うが・・・・・・」
「・・・彼女さんの?」
「あぁ。・・・昨日、別れてきた」
「えっ?あ、その・・・・・・おめでとう、っていうと・・・変でしょうか」

遠慮がちに笑みを作った私に、先輩は優しく微笑んだ。

生徒会に入った去年の冬、初めて入る生徒会室で、私は偶然にも修羅場のようなものを目にした。柳先輩と、その彼女さんの言い合い。恋人というにはあまりに不仲が目立つ言い合いだった。それを聞く内、私は柳先輩がその彼女と好きで付き合っているわけではないことを知ってしまったのだ。

『・・・・・・聞いていたのか?』
『あ、そ、その・・・・・・』
『・・・・・・いや、構わない。こんなところに私情を持ち込んだ俺に非がある』

彼はそう言って、新しく生徒会に入った私を歓迎してくれた。それから何度か彼女さんと一緒にいる姿を見たが、私の知る限り、先輩がその人に優しい笑みを向けていたことは一度もなかった。

先輩は、唯一事情を知っているらしい私に時々相談を持ちかけてきていたものだが、卒業を前に、先輩の苦悩も終わりを告げたらしい。良かった、と息をこぼすと、今まですまなかった、という謝罪が返ってくる。

「いえ、丸く収まって良かったです」
「あぁ、向こうもようやく納得してくれた」

本当にありがとう、と先輩は笑って、また私の頭を撫でてくれた。今度は振り払わず、純粋に彼の優しさを嬉しく思った。これで先輩との繋がりがなくなると思うと寂しいが、でも、どうせ卒業だし、私なんか無理だったのだ。
相談を受ける内、いつの間にか芽生えていた恋心を、私は最後までなくすことができなかった。そう、それだけのこと。

「先輩も、明日卒業ですね」
「そうだな。・・・高崎とは、しばらく会えないな」
「寂しくなりますねぇ」

溜め息が漏れた。・・・先輩が卒業したら、この気持ちからも逃れられるだろうか。先輩や、いつかまたできるであろう恋人と、笑って話せるだろうか。いや、こんなこと、考えるほうがおこがましいのかもしれない。
きっと明日になれば先輩とゆっくり話せる時間はないだろうから、今の内にお世話になりました、くらいは言っておこうか。本当はそれに加えて伝えたいことがたくさんあるが、欲張りすぎるとうっかり自分の気持ちを暴露してしまいそうだ。

「それで・・・、遥菜」
「・・・・・・え?あ、はい?」

突然名前で呼ばれ、私は驚いて顔を上げた。普段、先輩は私のことを名字で呼ぶ。名前で呼ばれるのは初めてだったから、正直すごくびっくりした。

「・・・・・・ぁ、」
「卒業の前に、ひとつ、大切なことをお前に言いたい」
「せ、先輩・・・、近い、です」

やばい、絶対顔赤くなってる。突然こんなことされたら、きっと誰だってそうだろう。

「遥菜、好きだ」
「は・・・、え?」


れ文より言葉


ぽかん、と口を開けた数秒後、勢いよく先輩に抱きついた。
――――――――――――
第3位は柳さんでした!反転ラブへの投票数が大きいようです。

それにしても甘ばかりですね。
管理人にしては珍しいかもしれません。
そして「卒業」はいずこに・・・(遠い目

2013/1/13 repiero (No,89)

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