||次の一歩までの空白


先輩。
ずっとずっと、好きでした。

他愛もない告白だった。自分にとっては聞きなれたそれ。今日は卒業式ということもあって、呼び出しが異常に多い。しかもその大体が告白だというのだから、本当に笑える話だ。そしてそれをあたり前として受け止めている自分が、愚かしく思える。いつから俺は、人の好意にあぐらをかくような人間になったのだろうか。

「悪いけどよぃ。俺、付き合ってる奴いるから」

笑顔でそう告げると、その女子は「はい、わかってます」と泣きそうな顔で言い、一礼をして走り去っていった。まぁ、大方「断られても良いから、丸井先輩に自分の気持ちを知っていてほしかった」とかそんなところだろうな。んなこと言われても、俺が今日何人の顔も知らない女子に告られたと思ってんだよ。いちいち覚えてられるかっての。自然とこぼれた溜息は重く、半ばそんな自分に呆れてしまった。

(早く遥菜んとこ行きてぇな)

ぼーっと、教室でそんなことを考えた。呼び出しにはあらかた応じたが、まだ何件か残っている。後はこの教室で待っていれば向こうからここに来てくれる筈だった。

(遥菜、怒ってるだろうな)

こんな日くらい女の子の呼び出しに応じなくたって良いじゃん、みたいな。しょうがねぇだろぃ、遥菜のことは大事だけど、でもわざわざ呼び出してまで俺に会おうとしてくれる子達を傷つけるわけにはいかねぇんだから。女子にモテて良い気になってるのは事実だし、女の子傷つけない俺ってばかっこいい!みたいなナルシズムがないわけじゃねぇけども。

「・・・あれ、遥菜。どうした?」
「あんまりにもブン太が遅いから、来ちゃったよ」
「まじか。一応まだ終わってねぇんだけど」
「いーよもう。帰ろ」
「だけどさぁ」
「いっつもブン太、他の子優先じゃん。・・・今日くらい、ね?」
「あー・・・悪ぃ。わかった、帰ろう」
「やった」

そう言われてみれば、確かに遥菜を優先することは少なかったな。今更ながらそれが申し訳なく思えてきて、俺は素直に従うことにした。

「どこ行くよ」
「どこでも。あ、パフェでも食べる?」
「行くか」
「やった!ブン太の奢りね」
「え、いや、まぁそのつもりだけどよぃ」

いざ「奢り」と言われるとなんだか財布の負担が増したような気になって、重たく溜息を漏らした。遥菜はそんな俺を見て楽しげに笑う。

「・・・ね、ブン太」
「なんだよぃ?」
「高校行っても、こんな風に一緒にいようね」
「どうした突然。当り前だろぃ?」
「うん、なんか、不安になって」

珍しくしおらしい遥菜を見つめ、俺は首を傾げる。普段元気な彼女ばかり見ているだけに、今の彼女には違和感があった。

「遥菜らしくねぇな。心配しなくても、お前しか見えてねーっつの」
「うわ、ちょっと、今のは寒いよ」
「んだよ。俺だって言いたかねぇよ」
「なにそれー!自分で言ったくせに」

ちょっと怒ったような顔をしつつも、どこか嬉しそうな様子の遥菜は、やっぱりいつ見ても可愛かった。こう、なんつーか、くすぐるもんがあるんだよな。こいつの浮かべる表情は。

「あーあ、なんかあれだな。ブン太は、高校行っても変わらない気がするな」
「は?どういう意味だよ。それなら、お前だってお子ちゃまなままだろぃ?」
「はぁ!?それこそどういう意味!?少なくともブン太よりは大人だよ!」
「嘘つけ。俺よりお菓子に目がねぇくせして」
「それは甘いものが好きなだけですー」
「太るぞ」
「ブン太よりは太らない自信がありまーす」
「うっぜぇ」

顔を顰めた俺を見て遥菜が笑い、それから俺の頬を引っ張ってまた笑う。このやろう、と思って俺が引っ張り返せば、彼女はまたも楽しそうに笑った。馬鹿だ、お互いに。

「あー、笑った笑った。だめだ、この調子じゃブン太のこと嫌いになれる自信がないよ」
「は?なる必要ねーだろぃ」
「もっと良い人が現れちゃったら、ブン太と別れられないじゃん」
「俺のプライドにかけて、そんな奴は現れねぇな。現れたとしても、ぜってぇ遥菜は渡さねぇ」
「そうまで言ってくれるなんて、嬉しいなぁ。やっぱり嫌いになれない。もっと好きになっちゃうかも」
「おう、なれなれ。ぜってー嫌いになんてさせねーからよぃ」
「期待してるよ」
「期待しとけ」

にっ、と遥菜に向かって笑みを見せた。遥菜はそれに笑い返して、それから俺の手を掴む。

「うわっ、おい!」
「早くパフェ食べたい!走って行こ!」
「ったく・・・仕方ねぇな」

やっぱり子供だ、こいつは。だからこそ離せない。俺がずっと守ってやろうって、そう思わされる。
中学から高校に移り変わるこの空白の時間、決して彼女のことを手放してはいけない。もしちょっとでも目を逸らしたら、そのまま彼女は拗ねてどこかに行ってしまうような気がした。あーやべぇ、俺重症だわ。

「なぁ、遥菜!」
「なにー?」
「高校行っても、ずっとこのままでいような!」
「それ、さっきも言ったよー!」
「そうだったっけか?」
「そうだよ!」

一緒に走りながら、そんな会話を交わした。俺はやや後ろを走る彼女の方を振り返り、彼女の笑顔を見て、また正面に向き直る。こうやって彼女の笑顔を見られる今が、酷く幸せだった。だから、こうやって幸せなままで、ずっと一緒にいたいのだ。

「おっしゃ、遥菜、行くぞ!」
「えっ、ちょ、ちょっと待っ・・・わわわっ!?」


の一までの


足の遅い遥菜を横に抱き抱えて、俺は一気にスピードを上げた。周りに人がいないわけじゃないけど、関係ない。顔を真っ赤にして目を瞑る彼女を見つめて、俺は嬉しそうに微笑んだ。
――――――――――――
アシンメトリーの票数で、丸井君が2位につけていました。

現段階では8キャラしか候補が上がっていないので、残り2キャラをどうしようかと少し迷っています。
「こいつ書いてよ」みたいなのがありましたら、コメントにて教えていただければと思います。

2013/1/7 repiero (No,87)

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