||消失ガール


どうしてもというから、これが最後というから、ずっとしつこかった女の呼び出しに応じてやった。何の用かは知れていたことだけど、今更俺に言うことなどあるのかと半ば呆れていた。

俺は階段を上っていく。屋上についた途端、またあの甲高い声を浴びせられ、頬を赤らめたあの様を見せられるのかと思うと、正直いまからでも帰りたい。ちなみにいうと、今日は俺たち3年の卒業式である。式は終わったからもう家に帰っていいはずなのに、なぜ俺はこんなことを・・・。ため息と苛立ちが止まらない。
階段を上りきった後もその気持ちは変わらず、屋上の扉を開くのも、少し嫌だった。

「あ、財前くんだ」
「・・・どーも。で、何の用や」

無表情に言えば、彼女は微かに笑い、すとんと全ての感情が消え去ったような顔をした。少し恐ろしさをも感じさせる表情に、一瞬違和感を覚えた。そもそも興味がなかったから彼女について知ることは少ないが、けれどその時の彼女は明らかに可笑しかった。そう、まるで別人のような。

「ひとつ聞いてもいいかな、財前くん」

やはり静かに、別人のようになって話す彼女は、よくよく見れば美しく、可憐だ。俺は顔をしかめたまま話の続きを促した。

「私はどんな女の子だったかな、財前くん」
「・・・はぁ?」

なにを突然。俺は失笑とともに鼻を鳴らす。そんなもの、一体聞いてどうするというのだ。聞いたところで良い答えが返って来るはずも無いのに。・・・あぁそうか、それもわからない馬鹿だからずっと俺につきまとっていたのか。ますますこの女に対する嫌悪感が増していく。

「なんでそんなん・・・「財前くん」・・・なんや」
「お願い。答えて」

意外にも真摯な、そして迫力ある言葉に俺は一瞬押し黙る。それからしばし考え込むようにしたあと、まあ素直に言ってやれば良いかと口を開いた。

「どうもなにも、うるさくて迷惑な女っつー印象しかあらへんな。これで満足か?」
「・・・そう。うん、満足したよ。ありがとう」

彼女はにこりと笑い、それに顔を顰めた俺に構うことなく背を向けた。屋上のフェンスへと歩み寄り、そこから黙って空を見上げる。やはり、なにか様子が可笑しい。今までであれば、泣き出すなりなんなり、そういう反応があっただろうに。そもそもこんなに大人しく淑やかに聞いてなどこなかったはずだ。

「けっきょく私、だめだったなぁ」
「は?」
「財前くんに好きになってもらわなきゃいけなかったのに。そうしなきゃ私、カミサマに殺されちゃうのに」
「・・・はは、何言うてんの?お前」

くるり、と彼女が振り返る。にこりと明るく可愛らしく優しく、それでいて何も感じていないような無表情で微笑む。

「財前くんの隣に、一瞬でも立ってみたかったなあ。焦って必死になって、ぶりっこなんてしなきゃ、財前くんも私を好きになってくれたのかな?」
「・・・・・・」
「自分の両親や友達を放ってまで、知らない世界にくるものじゃないね。もう遅いけど、今更そう思うよ。いくら大好きな人に会うためって言っても、犠牲にするものが大きすぎた。それがわからなかったから、きっと財前くんも私のことが嫌いだったんだろうなぁ。うん、私って馬鹿だ」
「・・・・・・・・・」
「カミサマとのゲームは、私の負け。・・・ごめんね財前くん。嫌な思いさせて」
「・・・さっきから、言ってる意味がわからへんのやけど?」
「うん。ごめん」

にこにこ、にこにこ。貼り付けたような笑みを浮かべて、彼女が話す。それを見ているだけで寒気とかよくわからない恐怖が身を襲って、すぐさまそこから逃げ出してしまいたくなった。けれど、身体が動かない。後ずさりすることも手を動かすことも視線を逸らすことすらも。
かしゃん、と音を立てて、彼女がフェンスに寄りかかる。

「それじゃあ、さよなら。財前くんと関われて、楽しかった」
「・・・・・・!?」

す、と。音も無く、彼女の寄りかかっていたフェンスが消えた。
我が目を疑い、そして重力に従ってそのまま後ろ・・・遠い地面へと落下して行く彼女の姿に、あ、と、小さく声が漏れる。彼女の黒髪が揺れる。あはは、という誰かの笑い声に空気が振動する。
俺はようやくのこと、慌てて走り出した。彼女のいたほうへと、突如フェンスが消えたほうへと、自分もそこから飛び降りるような勢いで。

「な・・・っ、」

ガシャン。そこにたどり着く直前、再び現れたフェンスに行く手を遮られる。そこから下を見下ろすが、彼女の姿はどこにもない。くまなく探したが、周辺に人の姿は見えない。

「はぁ・・・・・・!?」


ガー


それ以来、俺は彼女の姿を見ていない。それどころか、あれだけ強烈なできごとがあったにも関わらず、俺は彼女のことを徐々に忘れていっているのだ。何かに誘われるように、強制的に。他の人にとってもそれは同じのようで、卒業式から1ヵ月が経つ今、彼女のことを覚えているのはもはや俺だけだ。しかしそれもかろうじてのこと。もうすぐ本当に彼女のことを忘れ・・・、・・・、・・・・・・、・・・あれ、今、一体なんの話をしていたんだっけ?
――――――――――――
ぜんぜん意味がわからないと思うので補足です\(^o^)/

・「彼女」は現実からのトリップ主
・神様にトリップさせてもらう時に条件もらってた
・条件とは、卒業までに財前に好かれること
・クリアできればトリップ世界で一生を終えられるが、できなければ死んでしまう上、トリップ世界に「彼女」が存在した証拠は消されてしまう

こ、これで少しはわかりやすいでしょうか・・・!
どう考えても長編でやるべきネタだったんですが、そんなことしたら私のキャパが大変なことになるのとやる気がなかったというのもあって短編になりました。

2013/3/15 repiero (No,122)

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