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「……赤也の様子が可笑しい?」

休み時間の教室。窓際最後列の席で、私と仁王は向かい合って座っていた。

「可笑しいって……どういう意味で?」
「そのままの意味」
「なんじゃ、浮気か」
「違うわボケ。仁王も知ってると思うんだけど、なんか時々酷い痛みを訴えてるみたいなの」
「ふーん、アレのことか。たしかに今日、2・3度赤也の悲鳴を聞いたの。真田に怒られとるんかとも思ったが」

たしかに真田に怒られていたのも混じっていた気がするが、ほとんどは例の「原因不明の」痛みのせいだろう。原因に心当たりと言えば、静電気がどうとか言っていた赤也の言葉。私の場合にしても、後輩の女の子の場合にしても、赤也は誰かに触った時に痛みを訴えていた。

「どっか調子悪いのかなぁ」
「それはなか。今日も元気に走り回っとったけぇ」

そう言われて、今朝の練習の光景を思い出した。たしかに仁王の言うとおり、今日もいつもと変わらぬ様子で練習を続けていた気がする。

「うーん……なんだろうなぁ」
「なんの話してるんだよぃ?」
「あ、ブン太。あのね、赤也の話。なんか最近様子が変だから」
「なにそれ、浮気か?」
「違うわボケ」

鋭く睨んでやると、ブン太は肩をすくめて私の側の椅子に座った。ブン太と仁王は私と同じクラスで、赤也のこともあってけっこう仲が良い。特に仁王には悩み事とかも話したりするし、親友クラスの仲だと思っている。

「……ふーん、まぁたしかに赤也の悲鳴聞いたな。副部長に追いかけられてるのかと思ったけど」

仁王と見事に同じことを言われた。

「なんかね、誰かに触った時に痛がってるみたいで……」
「触った時? 今日あいつと軽く喧嘩したけど、なんともなかったぜぃ?」
「喧嘩って……また食べ物のこと?」
「あぁ! 赤也の野郎、俺のチョコ勝手に食べやがったんだよぃ!!」

ブン太が憤慨するように私の机を叩く。まぁまぁ、と仁王が宥めてやると、唇を尖らせて頬杖をついた。

「どっか痛めてるとかじゃねぇのかよぃ?」
「それだったら練習にも支障出るだろうし、ブン太との喧嘩はなんともなかったんでしょ? ……やっぱり、触った時っていうのは勘違いなのかな……」
「んー……、めぐみだけってことは?」
「それはないと思うぜよ。他の女子でも痛がってたの見たけぇ」
「じゃあ女子だけとか」
「まさか! 大体、なんで女子だけ?」
「あれじゃね、漫画とかでよくあるキョゼツハンノウっつー……」
「拒絶反応な。百歩譲ってそうだったとしても、非現実的すぎんか?」
「そんなの俺が知るかよぃ」
「めぐみせんぱーい!」
「……あ、赤也だ」

3人で頭を寄せ合って相談していると、突然明るい声が聞こえた。そちらを見ると、赤也が笑顔でこちらに歩み寄ってくる。ところが私が仁王たちと話しているのに気がつくと、少しむっとしたように顔を顰めた。

「仁王先輩たち、何してるんすか」
「なにって、相談に乗っとるんじゃよ」
「相談? めぐみ先輩、そんなの仁王先輩たちより俺にしてくださいよ!」
「俺らよりってどういう意味だよ赤也」
「まぁまぁ赤也、おまんじゃ頼りなかったっつーことじゃよ」
「どういう意味っすか!!!」

赤也がくると一気に賑やかだなぁ。私はしみじみと頷いた。と、そこで先ほどまで話していた内容を思い出し、慌てたように赤也に声をかけた。

「ねぇ赤也、最近、変わったこととかあった?」
「へ? 変わったことっふか?」

赤也とブン太が互いに互いの頬を掴んだ状態のまま、赤也はこちらを見てきょとんとする。それからその頬の伸びた可笑しな顔のまま考え込み始めて、つい少し笑ってしまった。すると彼が憤慨するように手を伸ばして、私の頬に触れようとする。

「うぎゃっ!!」

ガッタァァァン!!

盛大な音を立てて、赤也が背後の椅子ごと倒れこんだ。教室内は瞬時に騒ぎとなり、何人かが慌てたように赤也の方へ寄る。私は呆然とその様子を見ていた。

「ってぇぇ、めぐみ先輩、なにするんっすか!!」
「えぇ!? 何もしてないよ私!」
「あ、あれ……? でも今すごい痛みが……」
「……赤也、立てるかの?」
「あ、はい。ありがとうございます」

赤也は差し出された仁王の手を掴んで起き上がり、後は何事もなかったかのように私の前へ立った。あれだけ盛大に倒れたわりに、あまりに元気だ。それに、やはり仁王に触れても痛みは起きていなかった。私が触れると、必ず痛みを訴えている気がするというのに。

「……」
「あれ、どうかしましたか、先輩?」
「いや……、」
「それよりお前、授業もうすぐだぞ?良いのかよぃ」
「……あああ!! ほんとだ! じゃ、俺帰ります! あ、それとめぐみ先輩、今日は俺部活出れないかもしれないんで!」
「あ、うん。わかった」
「それじゃ、先輩方失礼します!」
「おう、もう来んなよ」

赤也は転がるように教室の外へ走って行き、すぐに姿は見えなくなった。しかし途中で何度も彼の悲鳴が聞こえ、恐らく例の「痛み」が起きたか、真田に見つかって怒られているんだろうなぁと思いながら小さく微笑んだ。

「……赤也、どうしちゃったの?」

彼の笑顔を思いながら、私はそっと目を伏せた。

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