||平凡な話
※このお話は、「離愛クライシス」の番外編です。本編をお読みになったあとでの閲覧を極力推奨いたします。
その日はどういうわけか、誰かに無条件に甘えてしまいたいような、そんな気がしていた。私はもともと甘えたがりな方ではあるけれど、普段それを表にだすことは少ない。大好きな彼氏が年下で、可愛いわんこのように人懐こい性格のせいもあってか、表に出す必要もなかったからかもしれない。
「あーかーや!」
私の声に振り返る彼の表情はいつものように明るい。見る人を惹きつける太陽のような笑顔を浮かべて、こちらに向かって走ってくる。かわいいなぁ、なんて呟いてしまうと彼はきっと怒るのだろうけれど、そう思わずにはいられない。かわいいなぁ、と結局堪えきれずに呟いて、先輩の方が可愛いっす!と嬉しい一言をもらってしまった。
「もう帰るんすか?」
「ううん、ちょっと呼んだだけ! まだ部誌書き終わってないし……」
ちら、と机の上の部誌に目をやり、日付しか書かれていない寂しいページを再確認する。マネージャーとして、一日たりともこれをさぼるわけにはいかないのだが、こう毎日書いているとさすがに書けることが少なくなってしまう。
他の部員はあらかた帰ってしまったので部室に人は少なく、少しこの書き仕事を休憩したとしても、怒られる心配はなかった。要は、きちんと書きあがっていれば問題ないのだ。時間がかかったとしても、その日のうちに終わるのならちょっとくらい息抜きしたって、という甘えた考えである。
「部誌っすか……毎日大変っすねぇ」
ぺらぺらとめくりながら、文量と書かれた内容を見て赤也が顔を顰める。それからできるだけ見ないようにそっと机の上に戻したところを見るに、あまりの量に気分が悪くなったらしい。あまり勉強は得意でない赤也からしてみると、正直大した内容は書けていないこの文でも頭が痛くなってしまうようだ。
「……俺には手伝えそうにないっす」
「あはは、だいじょぶ、別に期待してないから」
「どーいう意味っすか!!」
可愛いなぁ、赤也は。かわいくないっす!
ため息をつく彼に笑って、あまり気は進まないながらもペンをとった。えーっと、天気は晴れ、出欠は……そういえば下野くんが休んでたかな。
「……まだっすかー?」
「んー、まだまだ。待ってね」
赤也はすでに退屈そうである。くるくるわかめの頭を撫でてやれば、嬉しそうな笑みが浮かぶ。彼は甘えただ。私よりも。
「あーかや」
「はい?」
「んー、なんでもないよー」
「なんすか、それ!」
「赤也は可愛いなぁって」
「可愛くないっす! 可愛いのは先輩っすよ!」
「あはは、ありがと。赤也はおもしろいなー」
「えっ、どーゆー意味っすか?」
「どういう意味でしょー」
へらへら、ぐだぐだ。
いつもならここまで間の抜けた会話はしないのに、なんだか今日はやっぱり甘えたがりだ。赤也のお姉さんとか、頼れる彼女でいたいわけではないけど、こんなにも甘えたいと思うことは今までなかったように思う。いや、たまにはあっただろうか。よく覚えてないけれども。
「赤也ー?」
「なんですか?」
「んー、んっとね、甘えてもいい?」
「へ、え!? えっ、い、いいっすけど」
「……ほんとに?」
「ほんとっすよ! でも、先輩どうし……わ、」
ぎゅ。思い切り抱きついた。途端に黙り込んで内心でうろたえ出す赤也をよそに、私は彼の胸に頭をうずめて大きく息を吐いた。そっと、遠慮がちに背にまわされる腕は彼の優しさか。それが嬉しくて抱きしめる手に力を込めれば、尚更赤也の身体がこわばった気がした。
「あ、あの、先輩?」
「…………」
可愛いなぁ、赤也は。胸にうずまったまま、小さくそう呟けば、今度は否定を叫ぶことなく優しい苦笑が返って来る。急に大人びたようなその態度に胸がきゅぅ、となってまた抱きしめる力を強めれば、痛いっす!といつもの彼の声が聞こえた。
「せんぱーい? 部誌、書かないんすか?」
「……書くよぉ」
幸せだなぁ、と思いながらやっとのことで赤也から離れ、再びペンを握った。相変わらずペンは進まない。でも先ほどよりはそれを苦に思わなかった。
平
凡な話
それは、全てがはじまる少し前のこと。
――――――――――――
やっとできたああああ!!
お待たせしてしまってすみません!手は抜いていないつもりですが知らずの内に雑になっていたら申し訳ない\(^o^)/
リクエストありがとうございました!
※この作品は10万hitフリリク企画のリクエスト作品です。
2013/7/6 repiero (No,134)
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