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全てを終えて教室に戻ると、めぐみの席のところでめぐみたちが楽しそうに話しているのが見えた。それに少し、寂しげに笑う。赤也は俺に気が付いて機嫌よさげに笑みをこぼした。めぐみも幸せそうな顔をしていた。一瞬、そこに自分の居場所などないのではないのかという考えが浮かんだが、彼らが手招いているのを見てすぐに考えを打ち消した。例えそうであっても、今考えることではない。俺がそんなことを考えてはいけないのだ。

「仁王先輩、おかえりっす! 何してきたんすか?」
「んー、ちょっとな」

薄く笑う。赤也は首を傾げて不思議そうにしていたが、まさか話すわけにもいくまい。おまえに変装して高橋と話してきただなんて、そんなことを言えばあらぬ誤解を招いてしまいそうだ。めぐみも混乱することだろう。

「赤也、昼休み中ここにいたことはあんまり人に言うんじゃなかよ」
「へ? ……なんでっすか?」
「なんでって、めぐみのためじゃ」
「めぐみ先輩の――、わかりました」

多少だますような言い方ではあったが、嘘は言っていない。赤也は勝手に俺の言葉に納得して、真剣な表情でうなずいてくれた。

「仁王、なにかあったの?」
「別に」

めぐみは不安そうだ。しかし、先ほど高橋にもらった飴の余りを彼女の方に投げてやると嬉しそうに笑った。赤也と同じく、彼女もわりに単純である。
すると今度は赤也の方がずるいずるいと唇を尖らせる。やれやれと言った風に最後の飴を彼の前に差し出し、しかしすぐにひっこめて自分の口の中に収めてみせると、赤也がぎゃあぎゃあと喚きだした。飴ひとつでこれなのだから、彼は単純と言うよりか子供なのかもしれない。
しばらく赤也が騒いでいると、その声につられて来たブンちゃんまでもが俺にブーイングを飛ばし始めた。飴くれ飴くれと、なにやら妙なリズムまでつけてコールしてくる。わざとうんざりとしたような顔を作ってめぐみを見ると、彼女もこちらを見ていてぱちりと目が合った。思わず漏れる小さな笑み。幸せだった。






俺が戻るまでめぐみと話していてくれ、という仁王先輩に従い、俺は久しぶりにめぐみ先輩の教室へと向かった。最近はゆっくり話すことも稀だったから、こんな機会を持てたのは仁王先輩のおかげだ。めぐみ先輩の笑顔を見ながら、心の中でそっと感謝した。

昼休みが半分を過ぎる頃になると、教室に仁王先輩が戻って来た。少し話をして、丸井先輩と飴をねだったあと(結局もらえなかった)、仁王先輩に半ば追い出されるようにして教室を出た。何故追い出されたのかはわからなかったが、「早く戻った方が良い」と言った表情はわりに真剣なものであった。何か思うところがあったんだろう。
自分の教室に戻ると、席のところで高橋が窓の外を眺めていた。弁当を持っているところを見るに、ここで食べていたらしい。少し変なような気がしたが、俺以外の誰かと食べていたのだろうと納得して特に触れなかった。
近付いていくと、それまで無表情だったのを明るく変えて「おかえり」と高橋が笑う。その変わる様が機械のようで、漠然とした違和感のような、怖いものを見たような、そんな気になった。

「あれ、その飴……」

ふと目に入った飴の袋が気にかかり、思わず口に出してしまった。偶然なのか、先ほど仁王先輩が持っていた飴の小袋と同じものだったのである。

「ん、欲しいの? じゃああげるよ」
「あ、いや……ありがとう」

どこか引っ掛かりつつも、飴をもらえたのだから良いかとひとり納得して口に放り込んだ。いちごの味がした。


――――――――――――
今まで表記していた【○○side】というのを消しました。視点変更がわりと多いので書いていましたが、なくても大丈夫……です、よね?

2014/7/26 repiero

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