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職員室へ携帯を届けたあと、私たちは二人で帰路についた。一言二言の会話しかない、寂しい帰り道だった。電話のことを尋ねても、何も教えてくれない。しかしもうすぐ家につくという頃、仁王が立ち止り、ようやく口を開いた。

「あいつは、異世界の人間じゃ言うとった」
「え?」

あまりに突然すぎる発言に、すっとんきょうな声があがる。眉をひそめて仁王を見ると、彼は少し疲れたように笑って、ぼんやりと前の方を見て口を開いた。

「高橋のことじゃ」
「異世界って……それ、確か高橋さんも電話で言ってたんじゃ」
「おん。前盗み聞きしたとき、確かにそんなこと言っとったな」

あまりに非現実的な単語に少し目まいを覚えながら、小さく唾をのみこんだ。

「……電話の相手は誰だったの?」
「わからん。高橋の電話友達とだけ言うとった。何故か俺のことも知っとったみたいじゃけどな」
「仁王のことを?」
「おん」

当然ながら、仁王の方は相手のことを知らなかったようだ。つまり、完全に一方的な認知である。ただ仁王の場合、学校内で言えばかなり目立つ方だし、そういう人間がいてもおかしくはないのかもしれない。

「『高橋は異世界の人間だ。だから彼女は君たちとは根本的に違うモノなんだ。……彼女を元の世界に帰すことができれば、拒絶反応もなくなるだろう』」
「……頭痛くなりそう」
「俺もじゃ」

仁王は笑って、おどけるように肩をすくめた。その表情は疲れ切っていて、弱弱しく見える。彼自身も、混乱してしまっているのだろう。

「それと、『ヒントは彼女自身に隠されている』……じゃと。俺の話、信じるか?」
「え? そりゃあ……」
「無理に信じなくてもええよ。……正直、俺はこんな馬鹿な話信じとうない。高橋が電話で言ってたことも俺が今話したことも、全部俺の勝手な聞き違いであってくれた方が何倍も楽じゃからな」

仁王は目を細めてそう言った。
私は眉尻を下げて、そっと彼の頭に手を伸ばした。でも、その手をぎゅっと握りしめて下ろす。自分の身に発現した「拒絶反応」を、思い出してしまったからだった。
以前の仁王は、私よりもこの手の非現実的な話を信じていたのに、今の仁王はなんだか消極的だ。電話の話を直接聞いていたわけではないからわからないが、もしかしたら彼はまだ、私に何か隠しているのかもしれない。私に言えないような、大切なことを。

「仁王」
「なんじゃ?」

私は彼を見て微笑んだ。勇気づけるつもりで、精一杯微笑んだ。

「私は仁王のこと……信じるよ」
「!」

それに、仁王は一瞬目を大きく見開いた。けれどすぐに、悲しそうな顔をして無理に笑った。
無言で歩き出す彼の背中は、少し遠くに見えた。

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