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仁王の影に怯え隠れるようにして、私は彼と共に高橋さんのところへと向かった。教室に行けば会えるだろうという魂胆であったが、教室に行ってみても、彼女の姿はなかった。
どこに行ったのだろう。何を、しているのだろう。
不安が焦りを呼び、焦りが恐怖を呼び。まるで得体の知れない何かに立ち向かおうとしているかのように、彼女に対する恐れが募っていった。彼女にしてみれば、その間特別可笑しなことなどしていなかったのかもしれないが。
とにかくこの休憩時間中には会えないと踏み、ひとまず自分たちの教室へと戻ることに決めた。放課後、もう一度行ってみよう。部活は結果的に休む形になってしまうが、その辺りはブン太にうまく誤魔化してもらえれば良い。……本来、マネージャーの私が休むなんてもってのほかなのだけれど。
授業は何も耳に入らなかった。時計の針がひとつずれるたび、心臓が震えるのだ。隣の席の男子は私の青白い顔を見て心配そうにしていたが、それでうっかり触れられるわけにはいかなかった。なんでもないふりを装って、ただただしたばかりを向いて沈黙していた。
そうして、時間は経つ。全ての授業が終わる。

「……めぐみ」
「に、おう」
「行こか」
「……うん」

あぁ、行かなければならない時が来たんだ。
なんとなくここにいる気がして、屋上へ向かえば、彼女は案の定そこにいた。どうしてそう思ったのかはわからないけれど、彼女が「そこにいる」のは、なんだか似合わない気がした。不釣合いで、可笑しくて。異常な光景にすら見えた。確か初めて彼女を見た時も同じ感想を抱いたなと、そんなことをぼんやりと思い出した。
彼女は誰かと電話をしているようで、何かを聞き取りづらくぶつぶつと呟いていた。私たちは静かに歩み寄り、あと数歩、というところまで距離を詰めた。彼女はまだ気がつかない。

「――高橋恵理佳」
「ッ!!?」

仁王が彼女を呼ぶ。彼女が勢い良く振り向く。見開かれた瞳は私たちの姿を認識するなり更に大きくなり、ただ呆然と、こちらを見ていた。
泣いていたのか怒っていたのか、それとも別の原因なのか。彼女の血走った瞳は狂気に満ちていて、でもどこか、涙を思わせる表情をしていた。風にたなびく長い髪は、とても美しいのに。

「話があるんじゃ」

仁王の一言に、彼女の瞳が、揺れた、気がした。

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