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とんでもない話を聞いてしまった。

(高橋恵理佳)

会話の全てが聞こえていたわけではない。聞こえていたのは高橋の声のみだし、それもかなり断片的だ。しかしそれでも尚、その会話の「異常性」というものは本能的に察することができた。

小細工。「あの子」。異世界。

もちろん高橋という女が厨二病をこじらせたただの痛い子、というオチも十分にありえる。むしろその方が自分にとってはずいぶんとありがたいのだが、しかしそれで片付けるには身の回りに異常が起こりすぎているのだ。

「もしもし、めぐみか? 今すぐ屋上に来い。話したいことがあるぜよ」

電話をかけ、めぐみを呼び出す。電話口の彼女はどうしてか少し動揺しているようだった。……何かあったのだろうか。もしや、高橋がなにか。

「仁王……、いる?」
「こっちじゃ」

走ってきたのか、めぐみは肩を上下させながら俺のもとへ駆け寄ってきた。特に変わった様子はない。それにひとまず安心し、彼女の頭をなでようと手を伸ばした。

「……っ!! 触らないでっ!!」
「ッ、」

払いのけられ、こそしなかったものの。
強い拒絶を受けて、俺の手が触れる直前で止まる。驚きに見開かれた目がしっかりと彼女の泣きそうな表情を捉え、無意識に「なぜ」という疑問が頭の中を埋め尽くした。

「あ、ご、ごめん……。いろいろ、あって」

そういう彼女の表情はやはり泣きそうだ。尻込みしていく声は震えている。

「……ゆっくり話そか」
「うん……」

まずはまだ落ち着かない様子の彼女をなだめ、それから俺が先ほど聞いた内容をゆっくりと話し始めた。彼女ははじめ驚いた様子だったものの、やがて己の中で何かがつながったのか、だんだんとその不安そうな表情を真剣なものに変えていった。

「今度は、私が話すね」
「おん」
「……たぶん、なんだけど」

一拍。

「拒絶反応が出た」

めぐみが慎重に、こちらの様子を窺うように口を開く。その言葉に一瞬眉を寄せ、そこからなかなか続きを話そうとしないめぐみの代わりに頭が答えを探そうとする。拒絶反応?赤也の話か?それなら今更わざわざいう必要もないだろうに。一体めぐみは何の話を、しようと、

『触らないでっ!!』

は、と。こんな時ばかりは冷静に明晰に、頭が「答え」へのヒントを見つけ出してしまう。これはそう、つい、先程の記憶だ。

「赤也は女の子に拒絶反応だったよね? それで、どうしてかは、わからないんだけど……」

私にも、男の子への拒絶反応が出た。
――彼女の言葉に、一瞬、全思考が止まった。高橋のもらした「小細工」という単語が思考回路を抜けていく。あぁ、そういうことかと、妙に合点したようにめぐみを達観的に見つめてしまう。

「ねぇ、仁王。何が起こっているの? どうして私たちが、こんな目に合ってるの?」

めぐみは震えていた。俯いた瞳は、前髪のせいで何色をしているのかもわからなかった。

「めぐみ」
「……ん?」
「行こか。高橋んとこ」
「!! でも……、」
「わからんことは、本人に聞くのが一番じゃき」

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